プロ野球選手は様々なインタビューで、実生活に役立ちそうな一言をつぶやいている。本人にとっては何気ない一言かもしれないが、案外そういった言葉が人々を動かしたりもする。
今回は人間の感情について、日常でも意識できる名言を集めてみた。
6月12日、日本ハムのドラフト1位ルーキー・吉田輝星がプロ初先発初勝利を飾った。もちろんお立ち台にも呼ばれ、インタビュアーと多くのやり取りを行った。
そのなかで「応援が力になった。楽しみながらマウンドに上がった」とのコメントを残している。吉田はプロ野球選手とは言えまだ18歳。そして新人であり、初めての大舞台だ。
その場面で「楽しみながら」マウンドに上っていたのである。冷静に考えてほしい。社会人であれば新入社員のとき、学生であれば新入生のとき、初めての大舞台を楽しめるだろうか。
なかなか、そうはいかないはずだ。多くの人が前夜は緊張で眠れず、本番も無我夢中で通り過ぎることが多いだろう。
その後、新人という期間を過ぎて中堅、ベテランになってもなかなか本番を楽しむことは難しかったりもする。
しかし、なにごともやるのであれば「楽しんで」やるに越したことはない。なにかの舞台に立つとき、勝負どころでは吉田のインタビューを思い出しぜひ「楽しんで」本番を迎えたいところだ。
プロ野球の試合では基本的に勝利チームの選手がお立ち台にのぼり、ヒーローインタビューを受けるのが習わしになっている。ホームチームは複数の選手が呼ばれることも珍しくない。もちろんしゃべりの得意な選手もいれば、そうでない選手もいる。
そんななか、近年多くの選手が口にするのが「さいこーでーす!」という実にわかりやすい一言だ。阿部慎之助(巨人)や鈴木誠也(広島)、そして阿部寿樹(中日)もこのフレーズを使っている。
社会に出ると、なかなか素直に感情を表現できる機会は少なくなっていく。日本人ならではの奥ゆかしさなのかはわからないが、オーバーリアクションを取る人は多くない。
しかし、人間が感情を表現することは、意思の疎通を図る上で非常に重要なこと。大きな喜びや嬉しいことがあったときはお立ち台のような絶叫とまでは言わないまでも、「さいこーでーす!」と言いたいものである。もちろんTPOはわきまえなければいけないが、彼らのヒーローインタビューは素直な感情表現の大事さを思い出させてくれる一言である。
人は生きていれば、喜びだけではなく悲しみに暮れるときもある。もっとも大きいであろう悲しみが身近な人の死ではないだろうか。学生、社会人、主婦といった肩書きを問わず、家族の死に対面することはあるだろう。
多くの人が所属する組織のルールに沿い、忌引の制度を利用し最後の別れを行うはずだ。
しかし、プロ野球の世界ではそうしない人物もいる。辻発彦監督(西武)がそうだった。2017年の春季キャンプ開始早々、辻監督の実父が亡くなった。しかし、お通夜及び告別式には出席せずチームと行動をともにした。
その際、チームメンバーに辻監督はこう伝えている。
「昨夜、おやじが亡くなりました。みんなもお父さん、お母さんのおかげで今がある。それを忘れずに頑張ってほしい」
自身の悲しみを押し殺して逝去の事実を伝え、同時にメンバーを鼓舞するコメントだ。チームの士気が下がらないよう配慮したことが存分に伝わってくる。
もちろん、この言葉と振る舞いがすべての人にとって正解というわけではない。持ち場を離れ、最後の別れをするのが正解なこともある。それは置かれている状況や立場によっても様々なはず。たまたま辻監督が現在の職務をまっとうすることを選択しただけだ。
「お父さんなら『おらんでよか』と言うはず」という家族の声もあり、辻監督は決断を下したのだ。
自身が部下を持ち、マネージメントする立場だったときに家族の死と直面したらどのような言動をし、行動を取るのだろうか。
辻監督のコメントも一つの選択肢として、心に留めておきたい。どちらにせよ、まわりの士気を下げないようなことばを残したいものである。
文=勝田聡(かつた・さとし)