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盗塁王の本当の価値。ヤクルト・山田哲人の「トリプルスリー」だけじゃない歴史的偉業


 2016年のプロ野球を「記録」で振り返る際、歴史的偉業として球史に輝くのがヤクルト・山田哲人の史上初となる2年連続トリプルスリーだろう。

 打率.304はリーグ6位。本塁打38本はリーグ2位。そして30盗塁はリーグ1位だった。その打棒に注目が集まるばかりに、本来もっと評価されてもいい「2年連続盗塁王」の話題が少なくなってしまうのが山田哲人のすごいところだ。

 そこで本稿では、山田哲人の盗塁について、3つの視点からその偉業を検証したい。

盗塁王での歴代最少盗塁刺数


 今季の山田が盗塁を試みたのは32回。そのうち、失敗はわずかに2回だけだった。これは、2リーグ制以降の盗塁王のなかでは、もっとも少ない失敗数だ(※これまでの最少失敗数は、昨年の山田と、1992年のヤクルト・飯田哲也の「盗塁刺4」)。

 もちろん、今季の鈴木尚広(巨人)の「10盗塁/盗塁刺0」、2001年の松井稼頭央(当時西武)の「26盗塁/盗塁刺0」のように、2ケタ盗塁を記録しながら一度も失敗しなかった、という猛者もいる。それでも、「盗塁王のタイトルを獲りながら……」というところに、山田の価値があると思うのだ。


盗塁王での成功率歴代1位


 「盗塁刺」の数とも絡む記録だが、「盗塁成功率」という数値でも、山田は歴代盗塁王でもっとも高い「93.8%」という数値を記録した。

 過去の盗塁王で、9割を超える成功率だったのは、1950年の木塚忠助(南海)の「90.7%(78盗塁/盗塁刺8)」と、2002年の谷佳知(当時オリックス)の「91.1%(41盗塁/盗塁刺4)」の二人だけ。山田はこれらを上回ったわけだ。

 「盗塁王」という括りがなければ、30盗塁以上での盗塁成功率日本記録は、1968年の広瀬叔功(南海)で「95.7%(44盗塁/盗塁刺2)」。さすがにこの記録には及ばないものの、ほぼそれに近い数値を叩き出したことになる。

 先日、テレビ番組のインタビューで、松井稼頭央から盗塁の極意について問われた山田は「大事にしているのは準備。常に、行けるぞ、という姿勢」と答えていた。試合前、入念なティーバッティングを繰り返して安定した打撃を身につけたことで知られる山田。その打撃同様、「準備力」が生んだ高い盗塁成功率だった。

ヤクルト、連続タイトルホルダーV20達成


 山田の盗塁王によって、ヤクルトは今季、ある金字塔を打ち立てることに成功した。それが「20年連続タイトルホルダー輩出」だ。

1997年:ホージー(本塁打王)
1998年:川崎憲次郎(最多勝)、石井一久(最多奪三振)
1999年:ペタジーニ(本塁打王、最高出塁率)、高津臣吾(最優秀救援)
2000年:石井一久(最優秀防御率、最多奪三振)
2001年:ペタジーニ(本塁打王、打点王、最高出塁率)、藤井秀悟(最多勝)、高津臣吾(最優秀救援)
2002年:ホッジス(最多勝)、石井弘寿(最優秀中継ぎ投手)、石川雅規(最優秀新人)
2003年:ラミレス(本塁打王、打点王、最多安打)、高津臣吾(最優秀救援)
2004年:五十嵐亮太(最優秀救援)
2005年:青木宣親(首位打者、最多安打)
2006年:青木宣親(最多安打、盗塁王)
2007年:青木宣親(首位打者、最高出塁率)、ラミレス(打点王、最多安打)、グライシンガー(最多勝)
2008年:福地寿樹(盗塁王)、石川雅規(最優秀防御率)
2009年:青木宣親(最高出塁率)、福地寿樹(盗塁王)、館山昌平(最多勝)
2010年:青木宣親(首位打者)
2011年:バレンティン(本塁打王)
2012年:バレンティン(本塁打王)、バーネット(最多セーブ)
2013年:バレンティン(本塁打王、最高出塁率)、小川泰弘(最多勝)
2014年: バレンティン(最高出塁率)、山田哲人(最多安打)
2015年:川端慎吾(首位打者、最多安打)、畠山和洋(打点王)、山田哲人(本塁打王、盗塁王)、バーネット(最多セーブ)
2016年:山田哲人(盗塁王)

 今年のリーグタイトルは広島、巨人、DeNAの3球団がほとんどを占めている。下位球団であればノンプレッシャーでタイトル争いに没頭できる、という考えもあるかもしれないが、やはり、優勝争いという緊張感こそがタイトルにつながる、ということではないだろうか。

 実際、今年の最下位・中日のタイトルホルダーはゼロ。去年最下位だったDeNAも、山崎康晃が新人王にこそ輝いたものの、これはあくまでも投票での賞。自らつかみ取る個人タイトル獲得者はいなかった。

 そんななか、この20年間ずっとタイトルホルダーを輩出し続けてきたヤクルト。この間、リーグ1位ももちろんあったが、下位に沈むことの方が多かった。強いのか弱いのかわからない何とも不思議な球団。それがヤクルト、といえるのではないだろうか。

 来季もこの連続タイトルホルダーの記録を継続できるかどうか。その鍵を握っているのが山田哲人である可能性は高いはずだ。


文=オグマナオト

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