昨年と一昨年の2年で指名した11名の選手のうち10名が高校生と、将来を見据えたドラフト戦略に特化していたソフトバンクだったが、今年は即戦力の大学生投手、田中を1位指名。
「さては優勝を逃して方針を変えたな」
そう勘くぐっている人もいるだろうが、2008年に巽真悟、2012年に東浜巨と4年おきに大学生投手を1位指名している。
夏の五輪イヤーの1位は大学生投手。すると次回、大学生投手を1位指名するのは東京五輪が開催される2020年? 今の高校3年生のなかに、未来のホークスのドラ1投手がいるかもしれない!?
“大卒ドラ1”で入団したソフトバンクの投手の成績をみていこう。
2012年に1位指名された東浜は、ルーキーイヤーの2013年4月に先発デビュー。初勝利は9月と遅かったものの3勝。2014年は2勝、2015年は1勝と伸び悩んだが、2016年は一年を通じ先発投手として活躍し、9勝を挙げた。
一方2008年のドラ1・巽は1年目にウエスタン・リーグで最多奪三振を獲得。翌2010年は1軍で先発する機会もあったが結果を出せなかった。結局、8シーズンで24試合1勝4敗。今季、1軍登板はなく戦力外通告を受けた。
5分の1の確率で田中の交渉権を引き当てた工藤監督。
「(王貞治)会長は6分の1を引き当てたことがある」と工藤監督は話したが、6球団競合の末に王球団会長が交渉権を引き当てたのは大場翔太。2007年のことだ。
2008年3月、大場はデビュー戦で完封勝利と華々しいスタートを切るも、その後は8年間で15勝どまり。
2016年には中日に移籍。心機一転、巻き返しを図ったが、1年で自由契約になってしまった。複数球団競合によるくじを引き当てたからといっても、必ずしもその選手が活躍するという保証はない。
ソフトバンクの“大卒ドラ1”の出世頭は和田毅。和田が指名された2002年当時のドラフトには自由獲得枠制度があり、和田は自由枠での指名。多くの球団が熱視線を送るなか、和田はダイエーホークス(当時)に入団した。
和田は入団1年目から先発ローテーション入りし、14勝を挙げて新人王を獲得。8年間で107勝を挙げメジャーリーグへ渡り、今季、ホークスに復帰。15勝を挙げて最多勝を手にした。
今ドラフト終了後、「開幕投手を目指すくらいの気持ちで」という工藤監督のメッセージに対し、「ハードルが高いと思うが、それを目指して頑張っていきたい」と、田中は浮かれることなく冷静に返した。
贔屓目もあるが、この田中の冷静さ。過去の大卒ルーキーのなかでは和田に近いものを感じる。
2002年、西武に16.5ゲーム離され2位に終わったソフトバンクは、翌2003年に和田の活躍もあり3年ぶりのリーグ制覇を果たした。
来季のV奪回を目指すソフトバンク。田中正義はその救世主になれるのか?
ソフトバンクのいない日本シリーズを見ていると、なおさら田中に期待したくなる。
文=溝手孝司(みぞて・たかし)
札幌在住。広告代理業を営みながら、ライター、イベントなどスポーツ関連の仕事もこなす。北海道生まれなのにホークスファン歴40年。北海道の速球左腕・古谷優人(江陵高)がドラフト2位でホークスに入団。田中正義(創価大)とともに、未来のホークスを引っ張ってほしい。