3月7日、2017WBCの日本対キューバ戦で、山田哲人(ヤクルト)が放った大飛球を、外野席最前列にいた少年がキャッチしてしまい、ひと騒動となってしまった珍プレーは記憶に新しい。
本塁打と思しき打球が二塁打となりその少年は意気消沈。しかし、山田は「またグラブを持って応援にきてほしい」と温かいメッセージを送ったことでひと段落。「ドンマイ!」とばかり、少年をフォローする声が周囲から挙がった。
海の向こうのメジャーリーグで観客のホームランキャッチが大騒ぎとなったことがある。しかも、そのキャッチで英雄となった珍しいケースだ。
事件が起きたのは、1996年のア・リーグチャンピオンシップ初戦、ヤンキース対ボルオリオールズの一戦だった。
ヤンキースが1点ビハインドの8回、当時新人だったヤンキースのデレク・ジーターが右翼へ本塁打性の大飛球を放った。しかし、フェンスギリギリで、オリオールズのトニー・タラスコが捕球、と思われた次の瞬間、ボールは消えていた。
なんと、ライトスタンドで観戦していたヤンキースファンのジェフリー・マイヤー少年が手を伸ばしてキャッチ。そのままボールをスタンドインさせてしまったのだ。明らかにマイヤー少年がグラブを差し出していたのだが、判定はまさかのホームラン!
この珍プレーで同点に追いつかれたオリオールズは猛抗議するも判定は覆らず、ヤンキースはそのまま勝利。この奇跡の一発(?)で勢いに乗ったのか、ヤンキースは見事にワールドシリーズ制覇まで駆けあがるのだった。
ヤンキースの勝利をアシストしたジェフリー少年は、一夜にしてニューヨークの英雄としてメディアに取り上げられ人気者に。オリオールズにとっては釈然としない珍プレーではあったが、ヤンキースファンにとってジェフリー少年はMVP級の活躍を見せた英雄といったところだ。
「悪いことをするつもりじゃなかった。僕はただの12歳の子どもでボールを取ろうとしただけなんだ」
この件について、ジェフリー少年は悪びれるどころか、どこか誇らしげにこうコメント。筆者のイメージする「自由の国・アメリカ」を強く感じる騒動だった。
ジェフリー少年は一夜にして英雄になったが、逆に一夜にして敵役になってしまったファンもいる。
シカゴに住むスティーブ・バートマンはこよなくカブスを愛するイチファンだった。その彼が1つの行動を境に、シカゴ中を敵に回すこととなってしまう。
事件は、2003年10月14日のナ・リーグチャンピオンシップ第6戦、カブス対マーリンズの8回表に起きた。
3勝2敗でワールドシリーズ進出に王手をかけていたカブスは3対0とリード。守るカブスは、95年ぶりのワールドシリーズ進出まであとアウト5つまでに迫っていた。
その場面で、マーリンズの打者はレフトへのファウルフライを打ち上げる。フェンス間際でカブスの左翼手、モイゼス・アルーは捕球姿勢に入り、誰もが「残りアウト4つ」と確信した。
しかし捕球直前、アルーのグラブの上にバートマンが手を伸ばし、ボールはグラウンドに落ちてしまう。アウトのはずがまさかのファウルに……。アルーとスタンドのカブスファンは激怒し、バートマンへの罵声が飛び交う事態へと発展してしまう。
悪いことは続き、この珍プレーが呼び水となったのかカブス投手陣は大炎上。この回に8失点を喫し大逆転負け。カブスは翌日の7戦目にも敗れ、95年ぶりのワールドシリーズ進出の悲願は無情にも絶たれた。
こうしてカブスを愛するバートマンはカブスファンの目の敵となってしまったのだ……。悪意はなかった。ファウルボールを取りに行っただけなのに……。
この一件から13年経った2016年、カブスは108年ぶりにワールドチャンピオンに輝いた。一説によるとバートマンはまだシカゴに住みカブスのファンを続けているという。悲願達成を心から喜んだことだろう。
明暗がはっきりと分かれたファンがやらかした珍プレーを紹介したが、この2エピソード以外にも枚挙に暇がない。こうした観客の珍プレーはエンターテイメント要素として笑いを誘うこともあるが、くれぐれも興奮しすぎにはご注意を……。
文=井上智博(いのうえ・ともひろ