桑原は2007年の大学生・社会人ドラフト3巡目で横浜に入団。入団1年目の2008年には30試合に登板。3勝6敗1ホールドと将来の飛躍を期待させた。
しかし翌年以降、低迷が続く。2010年オフにオリックスに移籍し、2014年オフには阪神に移籍。2015年は6試合に登板するも6回1/3で被安打9、与四球6と課題の制球を克服できないでいた。
ところが、金本監督は桑原の武器を見逃さなかった。
桑原の得意とする球種は150キロ近いストレートが自然に曲がる「真っスラ」。大学時代に偶然の産物で生まれたものだ。
「この球はそう簡単には打てない!」
金本監督はそう確信した。今季、経験も実績も乏しい桑原を中継ぎに抜擢した理由は、自らの「打者目線」での判断、いわゆる「眼力」以外の何ものでもなかった。
実は、金本監督は現役時代に桑原の「真っスラ」を打席で体感している。
資料を紐解いてみると、それは桑原がプロ初完封勝利を上げた2008年8月16日、阪神対横浜(京セラドーム)でのことだ。この試合で金本監督は4打数2安打のマルチヒットを記録。第3打席はセンターへ、第4打席はライトへと弾き返していたのだ。
このときの桑原の「真っスラ」が、金本監督の記憶に残っていたのかどうかは定かでない。しかし、少しは記憶にとどめていた可能性はある。今シーズン、ブルペンでの投球を見たときに、その記憶がよみがえり、起用を決断したのではないだろうか。
昨季も金本監督は、原口文仁を育成枠から支配下登録に引き上げたその日の巨人戦で、起用を即決した。原口は期待に応え、プロ初ヒット。ブレイクのきっかけをつかんだ。
原口の打力を見抜いた金本監督の眼力で、今季は桑原を中継ぎ起用。チームを勝利に導いている。
桑原が阪神からプロ初完封を挙げた2008年8月16日は、奇しくも金本監督が通算2000試合出場を達成した日でもあった。
また、桑原が生まれた1985年10月29日は、阪神が西武を相手に戦った日本シリーズ第3戦にあたる。この年の日本シリーズで阪神は球団創設以来、初の日本一に輝いている。
桑原には、阪神や金本監督との何かしらの縁を感じる。
桑原は今季の日本シリーズ期間中に、32歳の誕生日を迎える。阪神も32年ぶりの日本一に輝くことができるか?
阪神が日本シリーズに進み、桑原の活躍で日本一達成すれば言うことはない。
文=まろ麻呂
企業コンサルタントに携わった経験を活かし、子供のころから愛してやまない野球を、鋭い視点と深い洞察力で見つめる。「野球をよりわかりやすく、より面白く観るには!」をモットーに、日々書き綴っている。