前回大会の2013WBC、2次ラウンド・台湾戦の9回に2死二塁から井端弘和が放った起死回生の同点タイムリー。もちろん殊勲の一打を放った井端はお見事だったが、その前に四球を選び、さらに二盗を成功させた鳥谷敬の貢献度も絶大だった。
そして、準決勝・プエルトリコ戦の8回裏。1対3と2点リードを許しながらも、1死一、二塁と追い上げるチャンスという局面。ここで、「ダブルスチール崩れ」のミスが発生し、一塁走者の内川聖一がアウト。一気に敗戦へと流れが傾いていった。
盗塁に救われ、盗塁で散ったという前回のWBC。まだ記憶に新しいシーンだが、こういうプレーが緊迫した試合の分水嶺となるのが野球でもある。
代表野手メンバーの昨シーズンの盗塁数を多い順に並べると以下のようになる。
(※カッコ内は盗塁成功率)
山田哲人(ヤクルト):30盗塁(93.8%)
田中広輔(広島):28個(59.6%)
秋山翔吾(西武):18個(75.0%)
鈴木誠也(広島):16個(59.3%)
菊池涼介(広島):13個(72.2%)
坂本勇人(巨人):13個(81.3%)
青木宣親(アストロズ):7個(43.8%)
松田宣浩(ソフトバンク):6個(50.0%)
平田良介(中日):4個(66.7%)
嶋基宏(楽天):4個(50.0%)
内川聖一(ソフトバンク):3個(60.0%)
小林誠司(巨人):2個(66.7%)
中田翔(日本ハム):2個(66.7%)
大野奨太(日本ハム):1個(100%)
筒香嘉智(DeNA):0個(0%)
(※青木の盗塁数は、昨年在籍していたマリナーズでの記録)
上の盗塁ランキングの通り、昨シーズン、10盗塁以上を記録している選手は6人。この6人には、ぜひとも積極的な走塁でチームを盛り上げてもらいたいが、それを実現するためにも、まだ比較的プレッシャーの少ない1次ラウンドのうちに「試走」をしておくべきだろう。
特に、東京ドームでの試合経験が多い広島勢(田中広輔、鈴木誠也、菊池涼介)には、チーム全体のリードオフマン的な役割が期待される。
先述した大事な場面での走塁ミスによる敗戦は、投打で圧倒されるよりも後味が悪い。悲劇を繰り返さないためにも、短い期間でベンチと選手、特にランナーコーチとしてグラウンドに立つ仁志敏久、大西崇之両コーチと選手がいかに緊密な関係を築けるかどうかも重要だ。
一方、代表野手メンバーの昨シーズンの犠打の数は以下の通り。
大野奨太(日本ハム):31個
菊池涼介(広島) 23個
小林誠司(巨人) 19個
嶋基宏(楽天) 11個
青木宣親(アストロズ):5個
田中広輔(広島):3個
鈴木誠也(広島):3個
坂本勇人(巨人):1個
山田哲人(ヤクルト):0個
秋山翔吾(西武):0個
松田宣浩(ソフトバンク):0個
平田良介(中日):0個
内川聖一(ソフトバンク):0個
中田翔(日本ハム):0個
筒香嘉智(DeNA):0個
(※青木の犠打数は、昨年在籍していたマリナーズでの記録)
犠打の多さが目立つのは捕手の3人。とくに大野奨太(日本ハム)は、所属チームでの打順は主に8番で、32個決めている。先発起用の可能性が高そうな大野が、大事な場面でしっかり走者を進められるかが勝負の行方を左右する可能性もある。
そして、ここでも菊池がキーマンとなる場面が出てきそう。大会が進むほど、「負ければ終わり」という状況に直面することになる。そんなゲームの終盤、1点を争うような展開となったとき、主軸に代えて菊池を「ピンチバンター」として送り出す勇気、あるいはその起用を我慢して後にとっておく覚悟がベンチにも必要になってくる。菊池の起用をめぐって、代表チーム全体の胆力が試される局面も出てくるかもしれない。
文=藤山剣(ふじやま・けん)