2004〜2005年に三冠王を獲得してから10年以上の月日が流れている。
近年は好不調の波が激しく、出場数もかなり絞られていた。昨季はリーグ優勝が決まったあとの9試合に出場したのみ。日本シリーズへのテスト的な意味合いもあったが、16打席で1安打9三振で失格。1軍では3年連続ホームランなしに終わった。
ちなみに2軍では昨季、77試合に出場し、打率.299 、11本塁打、38打点の成績を残している。
この数字だけ見れば、まだ力は残っていそうだが、他球団のスコアラーもまさか松中がソフトバンクを出るという予想はしておらず、調査はほとんどしていなかっただろう。
詳細なチェックをしていない中では、やはり1軍での9三振に目がいってしまう。どうしても手が出ないのもうなずける。
品行方正、球団に逆らわず、若手のお手本になるようなベテランが求められる今、松中はそれには少し当てはまらない。
2013年の交流戦の優勝決定戦では、「今日は代打はない」と告げられていたにもかかわらず、終盤に急遽代打起用した秋山幸二監督の采配に不満を示し、優勝セレモニーを欠席。
この一件で2軍降格を言い渡されるなど、近年は少々やっかいな選手として扱われていたきらいがある。
よくいえば実直、無骨で不器用な男なのだ。
今オフも「現時点では育成契約は考えていない」と表明。松中の正直さがあわられているが、近年の“いい人トレンド”に当てはめると、「育成でもいい! とにかく野球をしたいんだ!」という姿勢を示したほうが他球団も獲りやすかったはず。
先方の担当者としては「まあ、育成ですし…」と多方面を説得することができる上、松中ほどの実績がある選手ならば、春先の時点で道義上、支配下登録されるはずだ。
このあたりの計算のなさがどうしても引っかかる。
やはり松中に期待されるのは代打の切り札としての役割。しかし、セ・リーグ6球団は監督が全員40代と若く、松中と年代が重なる。
どの球団も若手への切り替えが急務とされているなかで、年代が近く、40歳超えのレジェンドの使い方は指揮官を悩ませそうだ。
中日では小笠原道大や和田一浩が余力を残しながらも現役を退いた。昨年は球界全体が“若返りトレンド”に傾き、松中にとっては「共感が得られない時期」なのだ。
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このように時代の潮流から見ると疑問点も多々あるが、やはり全盛期の松中のバットは衝撃的だった。火を噴くような打撃をもう一度見てみたい、単純に松中のプレーが見たいと思うファンも多いはずだ。
「松中信彦」というブランドは超一流。しかし、かつての金から渋みのある銀へ、転換が求められている。
文=落合初春(おちあい・もとはる)