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蔦文也=長嶋茂雄!? 映画『蔦監督―高校野球を変えた男の真実―』の見どころを聞く

 「さわやかイレブン」「やまびこ打線」で高校野球界に新風を起こし、「攻めダルマ」と呼ばれた男がいた。

 徳島県立池田高校野球部監督、蔦文也。


 1952年に同校野球部の監督に就任すると、1974年春のセンバツではわずか11人のチームで準優勝を達成。金属バット時代を先読みし、圧倒的な攻撃力で優勝3回、準優勝2回という黄金時代を築き上げた。2001年に逝去した後も、2014年春、池田高校が27年ぶりにセンバツに出場したことでその名前を思い出した人も多いはずだ。

 そんな蔦監督を題材にしたドキュメンタリー映画『蔦監督―高校野球を変えた男の真実―』が4月9日から東京・新宿K'scinemaで無料上映される。元プロ野球選手の畠山準氏や水野雄仁氏ら同校の野球部OBが多数出演。さらに、ピアノ音楽を“ゴーストライター騒動”で一躍時の人となった音楽家・新垣隆が担当するなど、注目すべき点は多い。しかも、本作でメガホンをとったのは蔦文也監督の孫である蔦哲一朗監督だ。

 『野球太郎』ではその蔦哲一朗監督にインタビューを敢行。映画の見どころ、孫からみた「蔦文也」の素顔を聞いた。

酒飲みの破天荒な人間がいる


「昔から池田高校には全国の高校野球ファンが訪ねてきます。『写真、撮ってもらえますか?』とお願いされることもあるんですが、『実は僕、孫なんです』といって驚かせる、みたいなことを高校時代はよくやってましたね(笑)」

 蔦哲一朗監督は、池田高校がある徳島県池田町の出身(2006年3月に合併され三好市池田町となる)。自身も池田高校の卒業生だ。ただ、野球の道には進まず、学生時代はサッカー部に所属。そして高校卒業後、大学入学のために上京してから、映画の道に進んだという。

「この道を選んだ時から、『いつかは爺ちゃんをテーマに作品を作らないといけない』という、変な義務感のようなものが自分の中にありました。この作品を通して、若い世代に池田高校のことを知ってもらいたい、という思いもあります。でもそれ以上に、自分自身が孫として『爺ちゃんのことをちゃんとわかってない』という負い目みたいなものがあり、そのことがモチベーションになった、ともいえますね」

 本作では、野球関係者だけでなく、池田町に住む市井の人々にもカメラを向けているのが特徴だ。

「昔から池田町界隈では、酒飲みの破天荒な人間がいる、ということで有名人。野球を教えているといっても、勝てない時代が長く続いていたので、『酒ばっかり飲んでるダメな人間』と思われていたみたいです(笑)」

 かつて東映フライヤーズにも所属していた蔦文也が池田高校野球部の監督に就任したのが1952年のこと。初めて甲子園に出場したのは1971年夏。実に19年もの雌伏の期間があったことになる。

「でも、甲子園に出るようになると評価がまったく変わって『素晴らしい人間だ!』という人も出てきたみたいで(笑)。今回、ドキュメンタリーを撮らせていただくと、昔から付き合いのある人ほど『ダメな酒飲み』という認識をお持ちで、それだけ優しく見守っていただいたんだなぁ、ということを強く感じました」

“蔦文也=長嶋茂雄”説


 池田高校野球部といえば、畠山準(元南海ほか)、水野雄仁(元巨人)を擁し、夏春連覇を達成した1982-83年世代が特に有名だ。本作では彼らのほか、多くの教え子たちが恩師・蔦監督との思い出を明かしている。


▲プロ野球でも活躍した畠山準氏

「お二人とも爺ちゃんが惚れ込んで声をかけた人物です。でも、そうとう怒られたエピソードを話してくれました。畠山さんに至っては『ホームから外野フェンスまで後ろにさがりながら殴られ続けた』と仰っていて、そんなことがあるの!? と驚きましたね。水野さんも同様に、結構ボコボコにされたみたいです。今の時代ではあり得ないことだと思います。無茶苦茶ですよね(笑)」

 それでも、多くの教え子たちが、恩師亡き後も毎年のように池田高校に集い、思い出話に華を咲かせているという。殴られてもなお、慕われる。それが蔦文也監督だった。

「畠山さんが仰っていていたのが、長嶋茂雄さん(元巨人)のような側面がある、と。憎めないというか、蔦監督だからしょうがない、という“キャラクター”も含めて周囲に認められ、受け入れられたんじゃないでしょうか。最近話題の人でいえば、問題発言が話題になるトランプさん(アメリカ大統領候補)のような言葉の巧みさも支持された要因かもしれません」

 最後に、孫として、そして映画監督として特にここに注目してほしい、という作品の見どころを聞いた。

「一時代を築く人物というのはどんな人間なのか、包み隠さず描きたいと思ってカメラをまわしました。蔦文也みたいな人間が今後出てくるためには、ちゃんと蔦文也のことを知らないといけないんじゃないかな、と。だから、綺麗ごとだけじゃなく、爺ちゃんをよく思っていない人の声も収めています。そもそも、教師として失格ですからね(笑)。そういった部分も含め、あの時代にこんな人物がいたんだ、という人間ドキュメンタリーとして観ていただければと思います」

 映画『蔦監督―高校野球を変えた男の真実―』は、4月9日(土)から15日(金)にかけ、東京・新宿K'scinema(※連日12時15分〜)で上映される。また、上映初日の9日に舞台挨拶があり、蔦哲一朗監督のほか、畠山準氏、水野雄仁氏という映画にも出演した池田高校野球部を代表するOB2名に、音楽を担当した新垣隆氏も登壇する。

 続いて4月16日(土)から22日(金)まで上映する愛知・名古屋シネマスコーレでは、16日に元PL学園野球部監督の中村順司氏と蔦哲一朗監督が公開記念トークショーの開催が決定。その後、5月14日(土)から20日(金)まで大阪・第七藝術劇場で公開する。高校野球の理念に則り、イベントの日も全て入場無料だ。

【映画『蔦監督』の上映を希望する団体・個人を募集しています】

 池田高野球部を率いた名将・蔦文也監督の人生を描くドキュメンタリー映画「蔦監督 ―高校野球を変えた男の真実―」は映画館での上映の他に、上映環境が整えば、全国どこでも上映会を開催することができます。

 上映を希望する行政、企業や団体を募集しています。蔦監督ファン、高校野球好きな方、といった個人でも構いません。詳しくは公式ホームページをご覧いただき、お問い合わせください。
公式ホームページ:http://tsutakantoku.com/

■プロフィール
蔦 哲一朗(つた・てついちろう)
1984年生まれ、徳島県出身。祖父・蔦文也が勤めていた池田高を卒業後、東京工芸大に進学し、映画を学ぶ。2007年に制作した『夢の島』で第31回ぴあフィルムフェスティバル・観客賞を受賞。2013年に発表した映画『祖谷物語−おくのひと−』では、第24回日本映画批評家大賞・新人監督賞、そしてトロムソ国際映画祭のグランプリに輝いた。

文・構成=オグマナオト(おぐま・なおと)

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