今季、さまざまなメディアに登場する“金本イズム”という言葉。
この金本イズムを実践した出来事といえば、3月3日、ソフトバンクとのオープン戦を思い出す。
6回表、先頭打者の緒方凌介が、加治屋蓮の143キロのストレートを、右ヒザに受けたときのことだ。痛みで悶絶する緒方の元にすぐさま駆け寄った片岡篤史打撃コーチが、ベンチに向かって×(バツ)のサインを送る。
これを見て金本監督が緒方の元でささやく。
「骨か? 肉か?」
当たったのが骨ならば考えよう、肉ならば行け!
金本監督の問いかけの意味するところはこれだ。
金本監督が現役時代、左手を骨折しているにもかかわらず、右手一本でバットを振りぬき、ライト前に安打を放ったことを、緒方が知っていたかどうかはわからない。
しかし、金本流に言えば、あの時はまぎれもなく「骨」だったわけで、「肉」で行かない選択肢など、金本イズムには存在しないのだ。
もちろん緒方は「肉です!」と言い、プレーを続けた。
2年目の左腕・横山雄哉がバレンティン(ヤクルト)に2打席連続で被弾し、3回でマウンドを降りたのは5月25日、神宮球場でのことだった。
「投げてはいけないボールを投げてしまいました」
試合後の横山の会見であるが、このときの金本監督の会見とは表現が微妙に違う。
「捕手の要求通りに、もっと内角を当ててもいいくらいの気持ちで攻めないと」
金本監督は横山が投球ミスを犯したのではなく、攻める気持ちのなさが被弾の原因と叱責したのだ。気持ちで負けた横山は肩の故障もあり、ファームで再起をかけることとなった。
横山が入団会見のときに書いた色紙が「気」であることは今でも記憶にあるはず。金本イズムを注入された横山が、1軍のマウンドで気迫のこもったピッチングを魅せてくれるのはそう遠くないはずだ。
現役時代、気持ちでは絶対に負けない野球を実践してきた金本監督。超変革を進める上で、この気持ちの部分を切り離すことは出来ない。
ゲームの勝敗には時の運の要素もある。しかし、気持ちの勝ち負けには運はない。
「気持ちでは絶対に負けない」
金本イズムが浸透し、金本監督がベンチでいつもニンマリとほくそ笑む。この笑みこそが、超変革が完結するシグナルなのかもしれない。
文=まろ麻呂
企業コンサルタントに携わった経験を活かし、子供のころから愛してやまない野球を、鋭い視点と深い洞察力で見つめる。「野球をよりわかりやすく、より面白く観るには!」をモットーに、日々書き綴っている。