《セイバーメトリクスで読み解く》なぜ、ソフトバンクは他球団を置き去りにできたのか?
【この記事の読みどころ】
・交流戦も優勝し、パ・リーグ同士でも圧倒するソフトバンクの強さの源泉とは?
・ホームランテラスで得点力大幅アップ!
・うまい選手のやりくりで、不調の時期がなく、突っ走った
ソフトバンクがとにかく強い。8月17日時点で、103試合を終えて67勝33敗3分けで貯金34。現在の勝率.670を維持してシーズンを終えれば、福岡移転以降の球団最高記録となる。それどころか1950年の2リーグ分立以降に記録された、のべ807チームのシーズン勝率の中で16番目の記録。これは上位2%に入る大記録である。2000年代では2012年に巨人が記録した.667を抜いてトップとなる。
今年のソフトバンクは、昨年よりも1試合あたりの得点を0.45点ほど増やし、失点を0.27点ほど減らしている。昨年は他球団も得点力でソフトバンクに食らいついていたが、今年は引き離された。
唯一オリックスが競り合えていた失点も、オリックスが低迷したため独走状態になっている。ソフトバンクのチーム力のアップに他球団が全くついていけていない。
☆ホームランテラス設置はプラスとなる
得点増の理由について思い当たるのは、やはり本拠地・ヤフオクドーム(以下「ヤフオクD」)に新設されたホームランテラスの影響だろう。これに関係していそうな数字を挙げると……
○ヤフオクDでの本塁打
34本→61本
○同1試合平均
0.51本→1.19本(2.7倍)
ヤフオクDでの本塁打は激増しているが、ソフトバンクは本拠地以外の球場でも本塁打が出る割合を上げている。テラスの影響だけではなく選手の力量アップによる部分も大きそうだ。
▲大きく成長し、打線を引っ張る柳田悠岐
本塁打増が影響して、ソフトバンクの長打率は.396から.416に、ISO(長打率から打率を引いた純粋な長打力を計る指標)は.116から.145にアップした。
昨年のソフトバンクは、出塁率こそリーグトップだったものの、ISOでは楽天以外の球団に後れをとり、リーグ5位。これが得点力で他球団に迫られた理由だった。しかし、今年はこの数字でもリーグトップに浮上した。
セイバーメトリクスでは、「得点は出塁力と長打力の積に比例するように増える」と考えられているが、両方でトップに立ったことで、ソフトバンクは面白いように得点を増やし、他球団を引き離していったとみられる。
○ヤフオクDでの1試合平均得点
4.36点→4.86点(0.5点増)
○ヤフオクD以外での1試合平均得点
4.09点→4.48点(0.4点増)
○1試合平均得点
4.22点→4.67点(0.45点増)
☆著しい投手陣のレベルアップ
本塁打が出やすい改修を行えば、普通は投手成績、失点数に影響が出るものだ。このあたりの変化はどうなっているのだろう。
○ヤフオクDでの被本塁打
36本→56本
○同1試合平均
0.54本→1.10本(2.0倍)
○ヤフオクDでの1試合平均失点
3.33点→3.49点(0.16点増)
○ヤフオクD以外での1試合平均失点
3.88点→3.23点(0.65点減)
○1試合平均失点
3.63点→3.36点(0.27点減)
ヤフオクDでの失点は増えたが、それ以外の球場で失点を大きく減らし、トータルではマイナスとなった。投手陣はテラス新設によるマイナスの影響を受けているものの、打者の得たプラスの影響の範囲内で押さえ込むことに成功している。
こうした変化の内側を示唆する数字の向上を紹介したい。
昨年はオリックスに抜かれていた対戦打席に占める三振割合が21.0%でリーグトップになっている。リーグ平均レベルだった四球の割合も7.5%でトップに浮上した。打たれると運によって、アウトになることもあれば、出塁されることもあるが、三振や四球は運に左右されることがなく、投手の能力が結果に直結する。これは、チーム全体で投手力が上がった、という証明だ。
また、これに加えて本塁打を除く打球がアウトになった割合も71.0%でトップとなり、守備も安定している。
得点を作り出す上で重要な「出塁率」「ISO(長打力)」、失点を抑止するために重要な「三振と四球(投手の基礎能力)」と「守備力」の全てがリーグ1位。得失点と関わりの深い重要指標をほぼ掌握し、いわば「完全優勝」に向けて突き進んでいる。
▲三振といえば抑えのサファテが48回2/3で80奪三振という驚異的なペースで三振を奪っている
☆不調やケガを補う圧倒的な選手層の厚さ
その要因の1つである、巨大戦力を大きなトラブルなく動かし続けた点も評価すべきだろう。
○3〜4月/平均得点3.69
平均失点3.38(差0.31)
○5月 /平均得点5.24
平均失点3.68(差1.56)
○6月 /平均得点5.10
平均失点3.19(差1.90)
○7月 /平均得点4.35
平均失点2.82(差1.53)
○8月 /平均得点5.21
平均失点3.64(差1.57)
得点力が上がらなかった春先を除き、得点と失点の差を常に1.5点以上作って、戦ってきた。打線、先発投手陣、救援投手陣がそれぞれある程度の質を保てていたことがうかがわれる。
大隣憲司の離脱や攝津正の不調など、先発投手陣はほころびが見られた。ここに打線の不振や、救援投手に過負荷がかかる局面が訪れれば、3者のバランスは崩れ、負けが込む可能性もあった。大抵のチームはシーズンに何度か、そのような状況がやってくる。
しかし、そこを打線の安定感やバンデンハーク、寺原隼人の活用によって回避できた。実際に今季の連敗は4回のみで、6月12日・13日から8月7日・8日まで1カ月半も連敗しなかった。
(連敗は日本ハムが10回、楽天が11回、ロッテが13回、西武が14回、オリックスが16回)
その裏側には、編成はもとよりコンディショニングや選手の運用管理におけるファインプレーもあったと考えるべきだろう。選手、首脳陣、フロントが一体となったチーム作りは12球団一だ。
■ライタープロフィール
秋山健一郎(あきやま・けんいちろう)/1978年生まれ、東京都出身。編集者。担当書籍に『日本ハムに学ぶ勝てる組織づくりの教科書』(講談社プラスアルファ新書)、『プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクスリポート1〜3 』(デルタ、水曜社)など。
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