【フランコ監督兼選手のコメントも】バットとグローブを携えて世界中を駆け回る“ジャーニーマン”たち
ベンチでは、英語だけでなく、スペイン語も飛び交う。その会話にタイ生まれの選手が入っていく。久々に見たルートインBCリーグの風景を表わすのに、「国際的」という言葉は外せない。日本の独立リーグの存在は、今や完全にグローバルな野球シーンにおいて確固たる地位を獲得し、世界中から「より上」を目指して、才能あふれた選手が集まるようになってきている。特に、自国にプロリーグがない、あるいはあっても短期のウインターリーグしかないという選手にとっては、自らの技能を高め、野球の腕一本でビッグマネーを手にするチャンスが手にできる日本の独立リーグは、魅力的なプレーの場だ。
☆プレーの場を日本に求めるオージーたち
オーストラリアと言えば、あのアテネ五輪での銀メダルをはじめ、WBCなどの国際大会でもおなじみの顔になった野球強豪国の1つである。阪神の「JFK」の一角を担った、ジェフ・ウィリアムスの出身地としても有名だ。
しかし、その実力に比して、国内での人気はフットボールやクリケットの後塵を拝している。そのため、2010年に復活した冬季プロリーグ(Australian Baseball League/ABL)も、まだまだ選手の多くが副業として野球をしているセミプロ段階にとどまっており、リーグが終わる2月になれば、選手たちは先の見えないアメリカでのマイナー生活に身を投じるか、元の仕事を続けながらアマチュアのローカルチームでプレーをするか、の選択を迫られる。アメリカで夢に挑戦したところで、現実にはメジャーの舞台に立つことのできるのは、ごく僅かな者だけだ。
※オーストラリア野球に迫ったオーストラリア野球紀行〜野球でも深くつながる日本とオーストラリア〜もお読み下さい。
日豪両国の球界は、これまで国際大会のたび強化試合を行ったことからもわかるように、トッププロから少年野球に至るまで、あらゆるレベルで太いパイプを持っている。独立リーグにも、これまで五輪やWBC代表選手が「助っ人」としてやってきたり、日本人独立リーガーがウインターリーグに参加したりと、人的交流は盛んだ。今年も4人のオージーたちが、BCリーグの門を叩いた。
☆フランコも感じる独立リーグの大きな可能性
リーグ内で国際化の先導役を果たしているのが、石川ミリオンスターズだ。「新幹線も通ったことだし、夏休みにはロッテのファンにもいっぱい来てもらわないとね」とは、端保聡球団社長の言葉。「常に話題作りをしていかないと」が口癖のこのアグレッシブな社長は、この冬、ドミニカ共和国に渡り、元メジャーリーガーの大物たちに接触。そして、日米球界のレジェンド、フリオ・フランコを兼任監督として招聘した。
「いいことだよ。世界中の選手たちが、さらに上を目指して集まっているんだから。このリーグには未来があるね」
自身の現役復帰も含めて、自分ができると思う限り、挑戦する場が与えられる独立リーグにフランコ監督は大きな可能性を感じているようだった。
このチームで先発の柱として活躍しているのが、ライアン・シールだ。長らくシカゴ・カブス傘下のマイナーでプレーしていたが、新たな挑戦がしたい、と今年の契約先として石川を選んだ。
「本当は今年も3つ、アメリカの球団からオファーがあったんだ。決め手はお金じゃなかったね」
シールは現役生活を続けるということを最優先に来日を決めた。アメリカでは3Aまで上り詰めたが、すでに26歳。いつクビになって引退に追い込まれるかわからないアメリカに比べ、シーズン通してプレーできる可能性の高い日本の独立リーグを選んだ、ということだろう。
石川とは、オーストラリアのアカデミー時代に知り合ったチェコ人選手、ヤコブ・スラディック(2012年に石川でプレー、この3月の日欧野球で来日)を通じてコンタクトをとったという。
母国ではブリスベン・バンディッツでプレー。アルバイトをしながらプレーをしていたオーストラリアよりも、野球に専念できる今の環境の方が快適だという。いつまで続けることができるかわからないが、できる限りオーストラリアと日本を往復する現役生活を続けていくつもりだ。
☆再チャレンジの可能性を与えてくれる
シールのブリスベンでの同僚であるスティーブン・チェンバースが、新潟アルビレックスに入団した。彼は2011年に関西独立リーグ(大和侍レッズ)でプレーした経験もある。実は、新潟には2年前にも在籍していたが、その当時は、まだチームにとって「助っ人」というには力不足と判断され、ロースター入りは果たせなかった。今年は「3度目の正直」とばかりに悲願のNPB入りを目指す。
「エキサイティングしてるよ。楽しみだね」
公式戦での初登板を翌日に控え、チェンバースは相変わらずの人懐こい笑顔で答えてくれた。
「ブリスベンの雰囲気もよかったけど、新潟の人もやさしいよ。食事も自分でも作るし、チームのレストランでも安く食べれるから快適だね」
日本での生活経験も長く、言葉も片言なら理解できる彼は、日本でのプレー生活をエンジョイするつもりだ。
☆“新潟の顔”となったデニング
新潟には、彼のほか、WBC代表にもなったスラッガーが2人在籍している。
ミッチェル・デニングはすでに来日3年目を迎える。ボストン・レッドソックス傘下のマイナーで2007年にキャリアをスタートさせた後は、ずっと母国と異国の間をバット1本かついで往復している。来日1年目にはいきなり首位打者を獲得、昨年も3割をマークするなど、すっかり“新潟の顔”となっている。
デニングと同じく、前回2013年のWBC代表メンバーに名を連ねたのが、シドニー時代の彼の同僚、ディビッド・キャンディラスだ。コロラド・ロッキーズでは3Aまで上り詰めた彼のキャリアは、オージー4人組の中では際立っている。
「まあ、3Aでも、去年の終盤だけだからね。シーズンのほとんどは2Aだったから」
と謙遜気味に話すキャンディラスだが、アメリカでもっと稼げたのでは、と思わせる実力の持ち主のはずだ。
「いや、そんなには変わらないよ。それより1つの経験として日本でプレーしてみたかったんだ。メジャー、ということを考えると、近道ではないかもしれないけど、他の野球も経験してみたいと思った。まぁ、ボールを投げて打つのは一緒なんだしね。とにかく、こっちに来たからには、日本のスタイルにアジャストしたいね。食事の方は、毎日ご飯を食べてる。すっかり慣れたよ」
過去2度のWBCの強化試合で来日した彼は、日本野球の熱狂ぶりに感動し、先に来日したデニングの勧めもあって新潟への加入を決めたという。独立リーグのスタンドの雰囲気は、WBCとは全く違うものだったが、それも母国のリーグやマイナーを知っている彼にとっては気にはならない。
☆フォークボール? ハッハッハ
違いと言えば、彼らは「まったく違うベースボール」と両国のプレースタイルに関しては口をそろえる。
「とにかくスピードが素晴らしい。守備もいいよね。僕はそういうスタイルが好きなんだ」
とは侍ジャパンとも対戦経験もあるデニング。
「オーストラリアではヒットで塁を埋めると、ホームランで大量得点。日本の野球はシングルヒットの積み重ねだね」
とは、投手2人の共通した感想。一方で打者2人は配球の違いを指摘する。
「3Aでは、ピッチャーは追い込むと、一番力のあるストレートをコーナーに決めようとするんだ。でも、日本では、追い込めば、フォークボール、スライダーだろ。フォークなんか、日本人と対戦するまで見たことなかったよ。アメリカやオーストラリアのピッチャーも、スプリットは投げるんだけど、やっぱりちょっと違うんだ。ストレートも、日本人が投げるのは回転がきれいだから、それも違うね」
しかし、彼らはそういう違いも当然受け入れている。
▲ライアン・シール(石川ミリオンスターズ)
☆MLBは最終目標。まずはNPBだ。でも……
プロであるならば、韓国や台湾でもオファーがあれば飛んでいくつもりだ、と新潟の3人は口をそろえる。
「でも、MLB、NPBはもちろん1つのゴールではあるんだけど、その前にチャンピオンになりたいんだ。そのために毎日いいコンディションを保ちたいね」
「さらに上」が目標ではあるものの、やはりプレーする以上は、チームの一員として優勝を目指すのは当然だ。母国のウインターリーグと日本での1年2シーズンというハードスケジュールに嫌気がさして、大型契約を反故にした外国人選手がいたが、「少し疲れはするけどね」と言いながらも、オージーたちはそれも含めてのプロ生活だと割り切っている。
この秋には、「野球力世界一」を競うWBSC主催の国際大会、プレミア12が日本と台湾で開催される。残念ながらオーストラリアは、今回は出場しないが、大会前に行われるであろう強化試合でオーストラリア代表が侍ジャパンと合いまみえる可能性も高い。そのときには、彼らも、目標とするNPBの一流選手相手と対戦することになるだろう。そんなことを考えながら、地方の球場を独立リーグ観戦しながら巡るのも面白いのではなかろうか。
■ライター・プロフィール
阿佐智(あさ・さとし)/1970年生まれ。世界放浪と野球観戦を生業とするライター。「週刊ベースボール」、「読む野球」、「スポーツナビ」などに寄稿。野球記事以外の仕事も希望しているが、なぜかお声がかからない。一発当てようと、現在出版のあてのない新刊を執筆中。ブログ「阿佐智のアサスポ・ワールドベースボール」(http://www.plus-blog.sportsnavi.com/gr009041)
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