7月16日、京セラドームのオリックス戦で田中将大の先発試合を観戦。試合前にオリックスの選手数人に田中の今シーズンについて聞いた。すでにその時点で12勝無敗、無敵の安定感を誇り、オリックスからすれば4月に2敗を喫していた。ただ、2敗目の試合でオリックス打線は今季の田中から最多となる15安打(3得点)。だから選手からは田中を賞賛する声が続く中、去年から大きく何かが変わったという声は聞かれなかった。
一方、ちょうどのその頃だったと思うが、ある新聞記事で楽天関係者の「ボール自体なら2年前の方が良かったんじゃないか」というコメントを目にした。一昨年と言えば19勝5敗、14完投、6完封、防御率1.27。完璧な成績を残した2011年のシーズンのことだ。今季、負けなしの投球を続けながら、どれだけ求められるのか…と少し気の毒にもなりながら、こうも思った。「一昨年の方が…」という意見が確かだったとしても驚かない、と。
今年の成績はここまで18勝無敗、6完投、2完封、防御率1.15(8月29日現在)。他にも1イニングにどれだけの走者を出したかを示すWHIPが2年前の0.87に対し今季は0.92。奪三振率などを見比べても、勝敗以外の多くの数字で2年前を下回っているものが多い。その中で、ボールそのものの変化というより、今季の田中を見ていて最も感じるのがこれまで以上のメリハリ投球だ。
ピンチでの強さは高校時代からの田中の真骨頂で、駒大苫小牧時代の3年の夏もそうだった。早稲田実・斎藤佑樹(日本ハム)と決勝で投げ合った甲子園もそれまでは主にリリーフ登板で決して調子は良くなかった。手痛い失点も重ねたが、ただ、ここで打たれたら試合が決まる! という場面では必死の踏ん張りで相手打者を抑え、終盤の逆転劇を呼んだ。今季も7月に入った時点では満塁の被打率が12打数0安打の0割と、話題になっていたが、ツボを押さえた投球を続けながら、このメリハリが試合全体を通しても感じるのが今季だ。どういうことか。
今季はテレビ中継も含め、今季5試合は田中が先発の試合をしっかり見たが、強く感じるのが中盤の強さ。これまで21試合でわずか23点しか失っていないが、イニング別の失点を見ると初回から順に2、5、7、0、0、4、3、1、1。3イニングずつ序盤、中盤、終盤と区切ると序盤の14失点、終盤の5失点(2完投のためイニングスは終盤が一番少ない)に対し、中盤はわずか4失点。ここの強さが際立っている。しかも4回、5回は無失点の素晴らしさだ。
よく立ち上がりや7回あたりが先発投手のポイントの回としてクローズアップされるが、終盤にはセットアッパーもクローザーもいる時代。立ち上がりの重要性はもちろんとして、実は、勝てる投手の肝は中盤にこそあるのではないか、と田中を見て考えるようになった。
一つの比較がある。今年、実に安定した投球を続けながら、その割に勝ち星が伸びないオリックスの金子千尋のことだ。投げているボールは実に素晴らしい。球種も豊富でコントロールなど田中以上とも見える。8月30日現在の成績は22試合に投げ10勝8敗、12球団トップの10完投、3完封、防御率も1.95。WHIPの0.97は田中にも迫る数値だ。しかし、田中との勝敗には大きな差がある。もちろん、打線の援護など他の要素も絡むため一概には言えないが、今季の金子の登板を思い出しても、観戦試合を含め、田中とは逆に中盤に失点のシーンを思い出すことが多い。
田中の23失点に対し、ここまで41失点と総失点に差はあるが、初回から順に失点数を見るとこうなる。5、8、1、9、8、4、5、0、1。並べてみると一目瞭然。序盤は田中と同じ14失点で終盤も田中の5失点に対し6失点。ところが、中盤が田中の4失点に対し実に21失点。特に田中が無失点の4、5回に17失点。これだけ極端な差が出ると、中盤の踏ん張りが勝敗に大きく関わってくると考えたくもなる。
序盤の3イニングを終え、試合の流れがどちらに向かうか、漂い始める中盤。ここを制するものが特に現代野球では勝利に近づくのではないか。それを証明しているのが今季の田中の成績ではないのか。勝負どころ、試合の流れを感じ、ツボを抑えるメリハリ投球。シーズンも深まってくる中、田中の中盤に注目し、負けない男の理由を感じてみよう。