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【石井裕也独占インタビュー 第2回】「向こうのバッターの力が上なんだ」と認めることも大事だとわかりました

文・取材=高橋安幸

 集中力を高めるため、マウンド上では補聴器のスイッチを切る石井裕也(日本ハム)。あえて音のない世界に入り込み、数多くの三振を奪うことから、高校時代に[サイレントK]と呼ばれるようになった。

 三振を奪う能力はプロでも大きな武器になり、ほぼ毎年、投球イニング数と同等の三振数を記録してきた。球速表示以上の体感スピードがあるストレートと、スライダー、シンカー、フォークなど多彩な変化球を操って打者を打ち取る。そのピッチングはどう変わってきたのか。

ピッチングの変化


───石井投手の場合、5年ほど前からフォークボールを生かせるようになり、ピッチングが一段とよくなったと思うのですが。

石井 フォークボールは高校のときも投げていて、社会人のときも、自分ではそこそこ使えるかなと思っていたんです。でも、5年前、多く投げてみて、プロで初めて「これは使える」と思いました。投球の幅が広くなったと思います。

───それは、あるとき急に「使える」と思ったのですか? それとも、練習を繰り返すうちに、「これは」となったのでしょうか。

石井 まずは練習ですね。練習でキャッチボールしているときに遊びで投げることから始まって、ブルペンでは、練習しているときにボールの落差が大きくなったと思って、対バッターに投げてみました。特に右バッターを打ち取れるようになったので、「これは使える」と。


───去年は以前に比べて、チェンジアップを多く使うようになったと思います。緩いボールが加わって、さらに投球の幅が広がりそうですね。

石井 チェンジアップはもともと持っていました。それを右バッターの外、ホームベースのギリギリのところに投げると、ボテボテのゴロを打たせて打ち取れる、幅が広がる、と思いました。速い球でカウントを取った後に投げると、打ち取りやすいです。たとえば、1ボール1ストライクで、バッターが積極的に打ってくるときはそうですね。

───左バッターに対しては?

石井 左バッターのときは、ストレートでも、インコースを攻めれば、詰まらせてボテボテにできると思いますね。それで打ち取ったことは何度もあります。攻める気持ちが大事です。

───攻める気持ちといえば、石井投手のストレートに対して、左バッターはいつも腰が退けていますよね?

石井 そうですね、よけたりとか(笑)。ただ、たまに抜けるときもあるので、開かないようにしています。肩の開きが早いときは抜けてしまうので、バッターはそれでわかってよけちゃうんです。だから、開かないように我慢して、我慢して、腕を真っすぐ振れば、わからないんじゃないかなと。それで打ってくれれば、詰まるときもありますね。


 低い声のトーンで、ゆっくりと一語一語をしぼり出すような口調は、10年前と変わっていない。反対に、明らかに違うのは声の力強さで、ピッチングの話には投手としての自信が感じられる。

 その自信なくして、いま現在の石井裕也はないわけだが、当然、投手として苦い思いも何度となくしてきた。とりわけ、プロ野球最高の舞台におけるあの勝負は、彼にどんな思いをさせたのか。

 2012年、東京ドームで行われた巨人との日本シリーズ第6戦。3―3と同点の7回裏に登板した石井は、1死二塁で阿部慎之助を打席に迎え、勝ち越しタイムリーを浴びた。3―4のまま試合が終わって巨人が日本一になり、石井は敗戦投手になった。

相手を認めることも大事


───ピッチングのなかでも、悔しい思いをしたときの話を聞かせてください。巨人との日本シリーズで阿部選手に打たれたときのことを。

石井 あれはもう、本当に悔しい…。低めのスライダーで打ち取れるかなと思ってたんですけど、ファウル、ファウルでタイミングを合わせられて、最後はスライダーが少しだけ甘くなって、うまく打たれて……。でも、今は、いい経験、できたかなと思いますね。

───では、悔しい思いを切り替えて、その経験をどう生かそうと考えましたか? たとえば、次に阿部選手と対戦するときがあればこう攻めよう、といったことは考えたのですか?

石井 考えました。去年の交流戦で対戦したんですけど、そのとき、スライダーではなくて、ストレートでリベンジしようかなと思って、勝負にいったんです。そしたら逆転ホームランを打たれて…。


 2013年6月6日、東京ドームでの対巨人戦。日本ハムが2―1とリードしている8回に登板した石井は、2死二、三塁の場面で阿部を迎えた。すると、2ボール2ストライクから投げたストレートをライトスタンドへ運ばれ、逆転3ランで2―4。再び、阿部の一打で敗戦投手になってしまった。


───リベンジはできなかった。

石井 はい。完璧に打たれて、やっぱり、すごいなと(笑)。僕は、力負けでした。でも、それでわかったのは、すごいバッターってこういうバッターなんだってことです。なんでも「悔しい」ではなくて、向こうのバッターの力が上なんだと認めることも大事だとわかったので、いい経験できたと思いますね。

次回につづく

石井裕也(日本ハム)独占インタビュー

第1回「マウンドに上がったら補聴器のスイッチを切って、集中力を高めています」


■ライター・プロフィール
高橋安幸(たかはし・やすゆき)/1965(昭和40)年生まれ、新潟県出身。日本大学芸術学部卒業。雑誌編集者を経て、「野球」をメインに仕事するフリーライター。1998年より昭和時代の名選手取材を続け、50名近い偉人たちに面会し、記事を執筆してきた。著書に『伝説のプロ野球選手に会いに行く 球界黎明期編』(廣済堂文庫)などがある。2014年5月より『根本陸夫伝〜証言で綴る[球界の革命児]の真実』(web Sportiva)を連載開始。ツイッターで取材後記などを発信中。アカウント@yasuyuki_taka

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