ドラフトに向けて「本番」を迎えるのはスポーツ紙だ。一般紙の「選挙の票読み」のようにスポーツ紙のドラフト指名予想はひとつの見せ場であり、百戦錬磨の記者が集う各紙が情報網のすべてを駆使して持ち駒を使い尽くす熾烈な予想争いを展開する。
今年は清宮幸太郎(早稲田実)が中心になり、抽選が多くなりそうだが、各紙の見せ場は「外れ1位予想」だ。1位予想はある程度まとまり、例年12球団中10球団ほどの的中率。しかし、クジを外した後の展開を予想するのは至難の業だ。それでも各紙は毎年、果敢に「外れ1位予想」に挑んでいる。
昨年は佐々木千隼(桜美林大→ロッテ)のまさかの1位指名漏れ(外れ1位で5球団競合)となり、ひとつズレる形になったが、非常に興味深い予想だった。
たとえば、DeNAは柳裕也(明治大→中日)、佐々木を立て続けに外し、濱口遥大を外れ外れ1位で指名したが、ここを的中させたのはスポニチのみ。的中が多かったのは、広島の加藤拓也(慶應義塾大)くらいであとの予想は割れまくった。
入念な準備と取材を重ねたスポーツ紙ですら外してしまう「情報戦」がドラフトの面白さのひとつだが、ドラフトに向けてのメディアの動きを見ると夢が広がる。
ドラフトで毎年「意外な指名」になりやすいのは、社会人や独立リーグの選手だろう。高校生、大学生にプロ志望届が義務付けられているのに対し、社会人や独立リーグにはその義務がない。当事者間では調査書などのやり取りはあるが、ファン目線では動きがなかなか見えない。
今年の新人王確実の源田壮亮(トヨタ自動車→西武)も動きが見えなかった一人だろう。吉川尚輝(中京学院大→巨人)、京田陽太(日本大→中日)と並び、アマチュアナンバーワンショートを争う立場であったが、コアなドラフトファン以外にはあまり知られていなかっただろう。
中位から下位指名の選手を「いかに語れるか」がドラフトマニアの見せ場である。特に情報量の少ない社会人・独立リーグの選手を語れるようになれば、ホンモノの称号を得ることになるだろう。ドラフト翌日に「1位の○○もいいけど、俺は6位の××に期待している」と職場や学校などで熱弁すれば、周囲からは憧れの目で見られるはず(白い目で見られる場合もあるので要注意)。
10月に入り、スポーツ紙の中面や紙媒体ではこのあたりの情報を充実してくる。表面的には清宮一色になりそうだが、だからこそ深く潜ることがドラフトマニアのステータスを上げることにつながる。
身のまわりにそのような奇特な方がいたら、「すごーい」とほめてあげてほしい。あまりの熱弁に溶けそうになったら、「清宮とゴジラ松井ってどっちがすごいの?」などとライトな質問をすれば、「こいつはわかっていない」という顔をして退散してくれるはずだ。
文=落合初春(おちあい・もとはる)