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第十一回:ゴロを捕るのが上手い選手

『野球太郎』で活躍中のライター・キビタキビオ氏と久保弘毅氏が、読者のみなさんと一緒に野球の「もやもや」を解消するべく立ち上げたリアル公開野球レクチャー『野球の見方〜初歩の初歩講座』。毎回参加者のみなさんからご好評いただいております。このコーナーはこのレクチャーをもとに記事に再構成したものです。
(この講座に参加希望の方は、info@knuckleball-stadium.comまで「件名:野球の見方に参加希望」と書いてお送りください。次回第5回開催の詳細をお知らせいたします)


守備力を見るには


キビタ:打撃編が一区切りついたので、今回から守備編に入ります。
久保:1試合の中で打球が飛んでこない選手もいますから、守備力を評価するのはなかなか難しいかと思います。試合前のシートノックや練習を見ていても「エラーしたから上手くない」という基準だけだと、退屈してしまいます。
キビタ:そこで今回からは、選手の守備力の指標となる動きを説明したいと思っています。基本的なスタンスはいつもと同じ。「ボール以外を見る」ことから始めましょう。


足を使っているか


キビタ:まずは守備位置から確認します。どういうところに守る野手が上手いと思いますか?
久保:内野は深く守っている人。外野は前に守っている人が上手いと言われています。
キビタ:その通りです。なぜかというと、外野と内野の間に落ちるテキサスヒットをできるだけなくしたいからです。


▲選手によっては、内野と外野の境目を越えて守る場合もある。


久保:なるほど。内野手だったらボテボテの前への当たり、外野手だったら背走する当たりにも追いつける自信がないと、そういう守備位置は取れませんね。
キビタ:ただし内野手は「肩に自信がある」ことが大前提になります。肩の強くない内野手は、前で守らないとアウトが取れません。
久保:その大前提がありましたね。
キビタ:内野手が前に出ることについても補足しておきます。前に出た方が、少ないバウンドでゴロを捕球できます。特に天然芝のグラウンドだと、ゴロが弾む回数が増えるほどイレギュラーのリスクも増えるので、前に攻める力が重要になってきます。
久保:しかし最近は人工芝が多くなって、待って捕る選手が増えました。
キビタ:必ずしもすべてのゴロに対して前に出る必要はありませんが、前で捕れる選手はいい選手の条件のひとつです。


▲普通のゴロでも前に出るか出ないかに注目しよう。


久保:その他に「守りのいい選手」の基準はありますか?
キビタ:以前も少しお話しましたが、内野手も外野手も、打球がくる前から足を動かしている選手は、守備への意識が高いですね。
久保:リズム合わせるように、小刻みに足を動かしている選手はよく見かけます。
キビタ:テニスだったら、サーブをリターンする前にも選手は動いています。ボールがくる前から動いている選手は、どの競技でも準備ができている=意識が高い、と言えそうです。そういう視点でキャンプ中継のシートノックなどを見てください。思った以上に個人差がありますよ。
久保:あっ、最近守備範囲が狭くなっていると言われている選手は、ノックを受ける前も棒立ちになっています。
キビタ:まだ調整段階だからというのもあるかもしれませんが、細かい準備ができない下半身になってきたから、守備範囲が狭くなったとも言えそうです。


再現性があるか


久保:プロにもなると、シートノックが随分リズミカルですね。高校や大学のように、明らかに怪しい選手がほとんどいません。
キビタ:シートノックをよく見てください。たとえばショートが二塁ベース寄りのゴロを捕りにいくときに、どういう動きをしていますか? 
久保:ゴロに合わせるように、小刻みに足を使ったりしています。
キビタ:もっと詳しく言うと、捕球体勢に入る前と後とを分けて見てほしいんです。遠いところのゴロでも、近くのゴロでも、プロの内野手は同じ歩数で捕るような練習をしています。距離の違いは歩幅で微調整しています。
久保:だから近くのゴロには小刻みで合わせているんですか。
キビタ:そして一度捕球体勢に入ったら、そこから先の動きはいつも同じです。
久保:言われてみれば! 移動距離は違っても、捕ってから投げるまでは一定です。だからリズミカルに見えるんですね。
キビタ:プロの基礎的なメニューで「次に打つ打球は必ず5回のステップで捕りなさい」とか「次は3回で」というように、事前にステップの数を指定して、どのような打球であってもそのステップ数で捕る練習があります。こういう練習を繰り返すことで、ゴロに入る“間合い”を養っているようです。余裕のある打球であったり、捕球してすぐ投げなくてはならないような打球であっても、捕球姿勢に入ったらいつも同じ形をとれるようにプロは練習しています。
久保:再現性があるってことですね。
キビタ:そうなんです。年間144試合以上を戦うプロ野球では、高いレベルでパフォーマンスを維持する力が求められます。
久保:守りの形、守りの再現性がある選手は、年間通してミスも少なくなると言えますね。ピッチャーのフォームだけでなく、ゴロの捕り方にも再現性が求められますか。
キビタ:おそらくスカウトの人たちも、そういった再現性の有無をチェックしていると思われます。


ゴロの捕り方をさらに詳しく


キビタ:内野ゴロの捕り方には大きく分けて2通りあります。1つは足さばきで捕る形。弧を描きながら股を割ってボールの正面に入っていく、丁寧な捕り方です。もう1つはグラブさばきで捕る形。捕球するポイントに一直線で入って、強引な切り返しで送球するタイプです。
久保:1人の選手が両方を使い分けているかと思うのですが…。
キビタ:もちろん時と場合によって使い分けますし、どっちが上手い、どっちが正しいということはありません。どっちの捕り方をする割合が高いかというだけの話です。
久保:たとえば足運び型だと?
キビタ:代表例が鳥谷敬選手(阪神)。足の運びで丁寧に捕球します。プロ入り後に投手から内野に転向した選手は、比較的このタイプが多いですね。西武にいた中島裕之選手(アスレチックス)もそうです。



久保:たまに高校生の試合を見ていると、股を割ることばかりに夢中になって、ゴロとリズムの合わない選手がいます。
キビタ:股を割ってゴロの正面に入るのが基本の形ではありますけど、ゴロを捕ってアウトにするのが最終目的ですからね。その高校生はまだ形が身についていないんだと思います。一連の動きがなめらかかどうかが、ひとつの指標になります。
久保:プロ入り後、内野手に転向した人に多いというのは「後天的に身体に覚え込ませた基本」とも言えそうですね。一方のグラブさばき型はどうでしょう?
キビタ:どっちかというと股関節が硬くて、足の長い選手がこういった捕り方をします。進行方向とは違う向きに送球しないといけないので、上半身で切り返す強さが必要になってきます。金子誠選手(日本ハム)や坂本勇人選手(巨人)、バルディリス選手(オリックス)がこのタイプですね。昔と比べて股が割れない選手が増えたので、このタイプが多くなっているとも言えます。ある意味「今風」な捕り方です。



久保:グラブさばき型はやはりハンドリングが命でしょうか。
キビタ:ハンドリングだけでなく、ゴロへの入り方も重要になってきます。ボールを少し横から見るように、ふくらみをつけて入っていける選手の方が、ゴロとバウンドが合います。直線でばかり捕りにいく選手が、俗に言う「ゴロと衝突する」タイプになります。
久保:足運び型もグラブさばき型も、打球に入る軌道がポイントになってくるんですね。
キビタ:両方の動きを柔らかくできるのが理想の内野手です。キューバの内野手はそれができてしまうんですよね。
久保:中でもWBCに出場しているキューバ代表・レギュラーショートのアルエバルエナ選手はスペシャルな存在です。
キビタ:これくらいの柔らかさがあれば、どんなゴロにも対応できますよ。究極の選手です。



■プロフィール
キビタキビオ/野球のプレーをストップウオッチで測る記事『炎のストップウオッチャー』を野球雑誌にて連載をしつつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』を軸足に、多彩な分野で活躍中。Twitterアカウント@kibitakibio

久保弘毅(くぼ・ひろき)/テレビ神奈川アナウンサーとして、神奈川県内の野球を取材、中継していた。現在は野球やハンドボールを中心にライターとして活躍。ブログ「手の球日記」

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