16日(日本時間17日)、本拠地・ヤンキースタジアムでのカブス戦(ダブルヘッダー第1試合)に先発した田中将大はメジャー最長となる8回を投げ抜き、2安打無失点10奪三振1四球。許した2安打はいずれもセーフティーバントによる内野安打という圧巻の内容でメジャー2勝目を記録した。
この日の完璧なピッチングに対し、米地元紙はこぞって絶賛。「宝石のようにごとく輝く投球」、「タナカは金額通りの価値があった」といった見出しが躍った。
活躍の場を日本からアメリカへ移し、環境が大きく変化しているのにもかかわらず、しっかりとアメリカの野球に適応している点を評価する記事も目立った。
ESPN電子版は「プレーの場を日本からアメリカに移しても田中の持ち味は失われることはない」との見出しをつけ、「日米のボールの違いもしっかりと克服している」と紹介。
「MLBのボールは日本よりも幾分大きいが、そのことによる影響はなにか生じているのだろうか? いや、見る限り、彼が投じる変化球のキレを助長する作用が働くことはあっても、MLBの打者がタナカを打ち崩すことの手助けにはまったくなっていない」
とアメリカメディアらしい言い回しで田中の適応力の高さを褒め称えた。
ESPN電子版は「彼は確かに持ってるよ。打者を抑えるための武器をね」と、ヤンキースのリリーフを務めるショーン・ケリーのコメントも掲載。
「先発機会はまだ三回に過ぎず、どんな投球をしても『今後の成績を予測するには依然、時期尚早』という声はまだまだ付きまとうだろう。しかし、現在までのところタナカは日本時代となんら変わらない投球を披露できている。活躍の場所を移したにも関わらず、失われたものは何もないのだ。アメリカで投げようが、故郷の日本で投げようが、彼の投球には関係のないことは判明したのだ」と記事を結んだ。
「打者の視界から突如地面へと消えるいやらしいスプリットは各打者の打撃フォームを滑稽なものへと狂わせ、空振りを奪ってしまう」
1試合平均11.45個という高い奪三振率にスポットを当てた記事やスプリットの威力に触れた記事も目立つ。
スポーツ系オンラインメディアの「BLEACHER REPORT」は「ピンストライプのユニホームに身を包んで以来、22イニングで28個の三振を奪った。日本からやってきた25歳のスターは奪三振アーティストとなっている」との見出しをつけ、高い奪三振の理由に迫った記事を展開。
「カブス戦でタナカのストレートとスプリットのスピードの差は5マイル以内。スピードも軌道も酷似しており、ボールがタナカの手を離れても、打者からすればストレートなのか、スプリットなのかの判別がつかない時間が長く訪れる。ストレートと思い、振り始めると、ボールは地面へと向かっている。そこからスイングを止めるチャンスはほとんどないに等しい」
とメジャーの強打者たちがワンバウンドする変化球に手を出してしまう背景を読者にわかりやすく説明していた。
ESPN電子版の掲示板にはファンからのコメントが掲載されていた。一部を抜粋し紹介する。
「彼はプロの中のプロだ。一年を通していくつかの負けはつくだろうが、そう多くはないだろう」
「素晴らしい投球だった。早く彼がレッドソックス打線相手に投げるところを見たい」
「今日のピッチングは打たれる気が全くしなかった。90マイル中盤のストレートにあのパワースプリットフィンガーを混ぜられたら、そうそう打てるもんじゃない。打者からすれば、途中でボールが消えたように感じることは、野球というスポーツを経験したことのある人なら容易に想像がつくだろう。そして彼の一番の長所は、これらの球種を巧みに操れるコントロールのよさだと思う。28奪三振に対し、与四球はわずか2。彼はパワーピッチャーでありながらグレッグ・マダックス(元ブレーブスほか)のような制球力を備えているのだ」
過去2回の登板後の掲示板と比較すると、ケチをつけたようなコメントがほとんど見当たらない。先週は「エースと呼ぶにはまだ早い」といった声も目立ったが、この日は既に田中がエースである前提のコメントも多く見受けられた。田中は辛口で知られるニューヨークの野球ファンの多くをわずか3試合で「マー君マニア」にしてしまったのかもしれない。
文=服部健太郎(ハリケン)/1967年生まれ、兵庫県出身。幼少期をアメリカ・オレゴン州で過ごした元商社マン。2児の父で少年野球チームのコーチをしていたその経験をもとにつづった「野球育児入門」を『週刊野球太郎』で連載。堪能な英語力を生かした外国人選手取材と技術系取材を得意とする実力派。