黄金時代・1980年代の高校野球本にクローズアップ『甲子園への道〜愛知大会1983年の全記録〜』〜嗚呼、青春の“時空を超えた”甲子園!特集〜
甲子園への道〜愛知大会1983年の全記録〜
え〜読者の皆様、高校野球の地方大会が佳境を迎えております今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。夏真っ盛りとは高校野球真っ盛りの季節。今週のベースボールビブリオは前回に引き続き、高校野球古本特集であります。今回紹介するのは、今からちょうど30年前に発行された「甲子園への道〜愛知大会1983年の全記録〜」というシロモノ。
『週刊野球太郎』読者であればご存じかもしれませんが、各県の地方大会プログラムといえば、素っ気ないモノが多いですよね。学校名とベンチ入り選手、監督と部長の名前が簡単に羅列してあるだけのパンフレットが当たり前ですが、この本は違います、豪華です。
1980年代といえば、日本中が高校野球に夢中になっていた時代でした。昭和でいうと55年からの10年間はまさに“高校野球黄金時代”。横浜の
愛甲猛と早実の
荒木大輔は黄色い声援を浴び、報徳学園の
金村義明がマウンドで喜びを爆発させ、まだ名古屋電気と呼ばれていた愛工大名電には
工藤公康がいた、あの時代です。
特にこの本が発行された83(昭和58)年は第65回の記念大会で、夏春夏の三連覇を狙う池田や広島商、高松商、高知商、天理、横浜商、沖縄県勢初優勝を狙った4年連続出場の興南、逆転のPL学園…といった個性的な学校、選手、監督が「これでもか!」といわんばかりに揃っていた大会でした。
この年の地方大会を勝ち抜き、愛知代表の座についたのは中京。この年のドラフトで阪急から1位指名を受けた
野中徹博を擁して甲子園でも順調に勝ち進み、当時、無敵を誇っていた池田に敗れたものの、ベスト8に残る好成績を挙げました。
しかし、この年の愛知県大会は特別に注目を浴びる対決があったのです。春のセンバツに出場して11打席連続出塁を記録した享栄の
藤王康晴と、中京・野中の対決です。愛知の高校野球の聖地といってもよいでしょう、
熱田球場で行われた地方大会決勝戦は、気温34度の炎暑にもかかわらず超満員。野中vs藤王の対決は三度ありましたが、右前打、右翼フライ、見逃し三振という結果でした。ちなみにこの試合は享栄の3番打者の打席でゲームセット。4番の藤王はネクストバッターズサークルで最後を迎えたのです。
この本の素晴らしいところは、写真のように全試合結果をスコア付きで掲載している点。野中と藤王の対決も詳細に知ることができました。今年は189校が参加していますが、愛知県といえば今も昔も全国屈指の激戦区。その地方大会のひと試合毎のスコアが詳細に記されているほか、各校のメンバーを写真つきで紹介しています。
当時の愛知県高校球児にとっては、学校の卒業アルバム以上の“破壊力”があるのは間違いないでしょう。この本に載っている高校球児たちは、野中や藤王のようにプロ野球選手にはなれなかったけど、同じ郷土で同じ時代に一緒に戦った誇りを胸に秘めて、それぞれの人生を歩んでいるはずです。
ここ最近、日本全国各地で地域密着型の野球雑誌が多く発行されています。北海道の高校球児たちを年4回の発行で詳細に紹介している「
北の球児たち」や、静岡県内の有望選手を100名も掲載している「
静岡高校野球」、そして神奈川県の高校野球情報を取り上げている「
ベースボール神奈川」などなど。今から30年も前に発行されたこの本は、地域密着型の高校野球本の先駆けといえるかもしれません。
■プロフィール
小野祥之(おの・よしゆき)/プロ・アマ問わず野球界にて知る人ぞ知る、野球本の品揃え日本一の古本屋「ビブリオ」の店主。東京・神保町でお店を切り盛りしつつ、仕事で日本各地を飛び回る傍ら、趣味はボーリングと、まだまだ謎は多い。
文=鈴木雷人(すずき・らいと)/会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。自他共に認める「太鼓持ちライター」であり、千葉ロッテファンでもある。Twitterは
@suzukiwrite ■お店紹介
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