優勝の可能性が完全に消滅した広島カープ。落胆を隠しきれないファンは、ネットを中心に監督批判、戦犯探しの論争が巻き起こしている。
そんな中、シーズンを通してカープファンの中で巻き起こっていた大論争をご存知だろうか?
その論争とは、正捕手論争である。
昨シーズン、65試合で.307 10本 30打点の数字を残し、待望の打てる捕手として期待を集める會澤翼。
12球団一と言われた卓越したキャッチングと経験をもつ石原慶幸。
若さと経験、打撃と守備、二律背反する特性を持つ二人が一つのポジションを争う展開に、試合を度外視した論争が繰り広げられているのだ。いったいファンはどちらの捕手を正捕手として認めるのか?ここまでの経緯を追ってみたい。
開幕当初は、昨シーズンブレイクを果たした會澤を正捕手に推す声がほとんどであった。
その流れに変化が出てきたは5月中頃。5月終了時点で、51試合中、會澤のスタメンが29試合(13勝16敗)に対し、石原は22試合(11勝11敗)と、會澤中心のスタメン起用で戦ってきたカープ。
しかし、チームは5月終了時点で23勝28敗と低迷。その一因は會澤にあるのでは?と囁かれ出す。
その間、石原とクリス・ジョンソンのバッテリーが快進撃。交流戦で、ソフトバンクホークスを手玉に取ったことから、次第に石原を推すファンが増えていく。このあたりから、會澤派、石原派の争いが激化するのだった。
球宴でMVPをとる快挙をやってのけたことで、再び評価が高まる會澤。しかし、後半戦になり會澤と石原の間にある守備力の差が浮き彫りになってくるのだった。
後半戦の勝負どころで會澤がパスボールを連発。期待された打撃も低迷とドツボにはまる。そんな會澤を尻目に、石原が攻守共にそこそこの数字を維持していた事もあり、起用法にも変化が及んだ。
9月29日現在、ここまでスタメンマスクの回数は會澤が70試合、石原が68試合とほぼ半数ずつ。しかし、8月以降に限っては石原の31試合に対し、會澤は17と、その数字に大きく差が付いてしまった。捕手は経験のポジションと言われるが、その言葉が如実に現れた格好か?勝負どころで石原主体に変わったのがそれを物語る。
そんな流れで、結果的に正捕手争いは會澤が石原の経験に阻まれた様相をていしている。しかし、ここまで12球団2位のチーム防御率2.97を誇る投手陣を支えてきたのは紛れもなくこの二人の捕手だ。
盗塁阻止率も9月29日現在、會澤が.404で1位。2位は石原の.321と高水準。捕逸8の會澤は12球団ワースト。石原の失策7はリーグ1位と、共にマイナス面を露呈した事も事実であるし、それが正捕手を絞りきれなかった要因ともいえるが、双方ともに出せる力を発揮したのは間違いない。
来シーズンも続くであろう両者の正捕手争いの今後に注目したい。
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)
広島カープをこよなく愛する中年男子。代打やクローザー等、主役ではなく一瞬の輝きを見せる選手に魅力を感じる通気取りな側面もある。サミー・ソーサに憧れメジャーリーガーを目指すも、野球経験が乏しく断念した。