先述した通り、守りの不安とは裏腹に打撃陣は開幕から好調だ。1番、2番が出塁し、クリーンアップが還す。まさに理想的な形を作れている。
特に新加入の糸井嘉男、開幕から4番を張る福留孝介、今年完全復活を図る鳥谷敬が絶好調。オープン戦では快音が聞かれなかったが、さすがベテラントリオ。しっかり開幕に照準を合わせてきた。
チームコンディション的には、若手が好調で突っ走るのもいいが、やはりベテラン選手が安定して打ってくれる方がいい。若手は壁にぶつかり急降下する可能性があるが、好調なベテラン選手は1年を通して結果を残すことが多いからだ。
好調なベテラン陣に加えて、昨季の高山俊、北條史也、原口文仁に続く若手が頭角を現してくるとチーム力は一気に上がる。
もちろん、高山、北條、原口は「2年目のジンクス」を跳ね除け、昨季以上の成績を残してくれれば言うことはない。
今季の阪神の不安要素の1つでもあるのが、復活を期待される藤浪晋太郎だ。
4月4日の京セラドームでのヤクルト戦では制球が安定せず、5回で8四球と大乱調。5回表には畠山和洋(ヤクルト)に乱闘を誘発する死球まで与え、不安な状態を残したまま降板した。安定感を欠く要因としては技術的なことより、気持ちの部分が大きいのかもしれない。
ただ、ケガの巧妙ということもある。
藤浪の死球で巻き起こった乱闘騒ぎでは、バレンティン(ヤクルト)に応戦した矢野燿大バッテリーコーチが退場となったが、矢野コーチ、高代延博ヘッドコーチをはじめ体を張って参戦した首脳陣の姿にナインが発奮。
続く、6回、7回を松田遼馬、8回を藤川球児が熱投。気持ちのこもった投球を見せれば、6回裏には糸井が「絶対勝つ!」と気合のこもった打席で、ライトスタンドに叩き込んだ。
この試合には敗れはしたものの、翌5日のヤクルト戦では、糸井が前日の鬱憤を晴らすかのように、ルーキ(ヤクルト)の150キロストレートを完璧にとらえ、打球は弾丸ライナーでライトスタンドに突き刺さった。
守備の弱点はシーズンを通して克服しなければならない課題だ。しかし、守備は一朝一夕でうまくなるものではなく、現メンバーで戦う以上、ある程度の失策は仕方ない。そんな覚悟が必要だ。
そして、打撃陣は現段階では調子がいいとはいえ「打撃は水物」。打てるときと打てないときがある。
となると、最も阪神に欠けていて、必要とされるのは「気迫」の部分だろう。藤浪だけでなく、若手を中心に阪神の選手は総じておとなしい印象がある。
開幕4戦目、5戦目に見せた糸井のホームランは、気迫で打ったようなものだ。糸井は開幕前にこう言っていた。
「死ぬ気でやる!」
この気持ちを若手が持ち続けてこそ、今季の阪神は面白い存在になる。
文=まろ麻呂
企業コンサルタントに携わった経験を活かし、子供のころから愛してやまない野球を、鋭い視点と深い洞察力で見つめる。「野球をよりわかりやすく、より面白く観るには!」をモットーに、日々書き綴っている。