選手の価値基準のひとつである年俸。とくに大台の「1億円」に達すると一流プレーヤーの仲間入りというイメージが湧くが、2019年もこのボーダーをクリアした選手が表れた。
今回はそんな大台達成者の道程を振り返る。
若鷹軍団の扇の要として投手陣を引っ張っている甲斐拓也(ソフトバンク)。育成出身ながら「甲斐キャノン」と呼ばれる強肩を武器に、日本シリーズMVP獲得、侍ジャパン選出と次々と快挙を達成してきた稀代の名捕手がついに大台を突破した。
実績からすると遅いような気もするが、実は2019年シーズンが初の規定打席到達。スタメンではあるものの打率が低く、試合終盤になると交代させられていたことから、打撃面のアピールが足りなかったと思われる。
しかし2019年は本塁打を2ケタ(11本塁打)に乗せ、年々、打棒に磨きがかかっていることをうかがわせる。そして、ソフトバンクは甲斐の大台到達でスタメン全員が「億超え」となった(二塁手に明石健志、右翼手に中村晃が入る想定)。次は「スタメン全員2億超え」か。
続いては苦労人を2人紹介。1人は巨人からのトレードを機に能力が開花した大田泰示(日本ハム)。巨人時代は、高卒野手(東海大相模高)のドラフト1位ということで松井秀喜の「55」を与えられたが、そのプレッシャーゆえか、なかなか1軍で結果が出せずにいた。
もどかしいシーズンが続いた末、2016年のオフに日本ハムに移籍。巨人に見切りをつけられた選手がどうなると思ったが、よほど北海道の水が合ったのか打棒が爆発。2019年シーズンまでに3年連続2ケタ本塁打を記録した。
11年かかってようやく花開いたことになるが、故障しながらも年々成績を伸ばしているのでまだまだ活躍してくれるだろう。2億円も夢ではない。
もう1人の苦労人は球界の盟主で息の長いプレーを続ける亀井善行(巨人)。15年目での達成は史上4人目のスロー記録ということで、生え抜きの頑張りが認められた格好だ。
2009年にはほとんど実績のないなかでWBCの日本代表にも選出されたが、その年に打率.290、25本塁打、71打点というキャリアハイを達成。このまま突き抜けるかと思ったが、守備位置の頻繁な変更や故障に悩まされ、なかなか思うような成績を残していなかった。
そんななかでの大台到達。巨人はベテランに厳しい印象もあるが、結果を残した選手はしっかりと評価することが伝わってきた。くすぶっている選手はぜひ、亀井を見習いたい。
苦労人とは反対に壁をヒョイッと超える選手もいる。山岡泰輔(オリックス)などは好例で、入団4年目での1億円突破によりイチローの球団最年少記録(5年目)を更新した。
社会人野球出身ということでドラフト時には「即戦力」と評されていたが、1年目と2年目は黒星が先行。それでも3年目となる2019年シーズンに13勝(4敗)と気を吐き、推定年俸4500万円からの倍増を勝ち取った。
そもそも瀬戸内高時代に広島新庄高の田口麗斗(巨人)に投げ勝って甲子園に出場し、ドラフト候補として名前が挙がっていただけに実力は備わっていた。それだけに活躍するのは時間の問題、プロの水に慣れる必要があっただけということだろう。
最後は西武ファンの筆者が「よくぞ、ここまで…」と思う選手を。そう金子侑司(西武)である。2016年に盗塁王を獲得したものの、打撃が安定せずになかなか数字を残せなかったが、外野に定着して雑念が消えたのか、はつらつとしたプレーを見せている。
2019年シーズンは久しぶりの盗塁王獲得に加え、打撃にも進歩が見られたことから、失敗に終わったリードオフマンとしての役割にも再度期待したくなる。
秋山翔吾のレッズへの移籍が決まり、今度は中堅へのコンバートも濃厚。だが金子の快速がより生きる仕事場だとも感じている。気になることといえば、ボールを追う際に飛ばした帽子を誰が拾うかくらいのものだ。
すんなり1億円に達するのも、紆余曲折の末に達するのもドラマ。100人野球選手がいたら100通りの稼ぎ方がある。
しかし大台達成はどの選手にとってもゴールでなく通過点なはず。1億円を励みにどれだけ積み上げていくか、より高みを目指していくことこそがプロ野球選手の醍醐味だろう。今季の“億プレーヤー”にはとくに注目したい。
文=森田真悟(もりた・しんご)