週刊野球太郎
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第十四回:状況ごとの守り方、攻め方

『野球太郎』で活躍中のライター・キビタキビオ氏と久保弘毅氏が、読者のみなさんと一緒に野球の「もやもや」を解消するべく立ち上げたリアル公開野球レクチャー『野球の見方〜初歩の初歩講座』。毎回参加者のみなさんからご好評いただいております。このコーナーはこのレクチャーをもとに記事に再構成したものです。
(この講座に参加希望の方は、info@knuckleball-stadium.comまで「件名:野球の見方に参加希望」と書いてお送りください。次回第5回開催の詳細をお知らせいたします)


送りバントを巡る攻防

キビタ:守備と走塁・機動力は表と裏の関係です。今回は両方を絡めながらお話していきます。
久保:さっそく無死一塁からお願いします。



キビタ:無死一塁では、ランナーを二塁に進めることが重要になります。ランナーが二塁まで進めば、ワンヒットでホームに還る可能性が高まります。いわゆるスコアリングポジション(得点圏)ですね。
久保:二塁まで行けば、バッテリーのサインが見えたり…。
キビタ:サイン盗みは禁止されているので…。ともかくランナーが二塁まで進めば、バッテリーの癖など様々な情報が手に入るし、相手の動揺も誘えます。得点が入る確率も高くなるので、特に序盤ではランナーをいかに二塁まで進めるかがポイントになってきます。
久保:無死一塁で考えられる選択肢はなんでしょう?
キビタ:まずは送りバント。他にはヒットエンドランやバスター、単独スティールもあります。最悪の形はゲッツーで2死ランナーなしになることです。
久保:送りバントを初球で決めて、1死二塁の形を作るのが、最も堅実な作戦かと思いますが。
キビタ:初球で決められればベストですけど、レベルが上がってくるとそう簡単には送りバントをさせてもらえません。そこで1球目にバントの構えからバットを引いて、相手の出方を探るのです。
久保:「エバース」と呼ばれる動きですよね。いつも疑問に思うんですけど、バントの構えから見送って、何が見えてくるのでしょう? 
キビタ:ファーストとサードのダッシュを確認します。片方だけの場合もありますし、両方とも出てくる場合もあります。そのときに野手の動きを観察します。そして次の球でバントをするときに、内野手が出てこない方(もしくは出足の悪い方)に転がせば、送りバントが決まる確率が高くなります。



久保:逆に守る側からすると、バントシフトで圧をかけるという考えもありますよね。たとえば横浜高だったら、初球で猛烈なチャージをかけて、相手に「バントしても絶対刺される」というイメージを植えつけてきます。
キビタ:そうなると、守っている側のペースです。
久保:でも「決めつけ」はよくないですよね。
キビタ:「ここは100%送りバントだ」と決めつけていると、相手がバスターに切り替えてくる可能性があります。
久保:よく「アウトをくれるんだから、送りバントさせればいいじゃないか」なんて言いますけど、それはピッチャーに圧倒的な力がある場合だけだと思います。初球で簡単に送りバントを決められたら、試合の流れが相手にいってしまいますし。そうさせないために、色んな駆け引きが発達したのでしょう。




ヒットエンドランとランエンドヒット

キビタ:無死一塁の選択肢のひとつにヒットエンドランがあります。
久保:エンドランとランエンドヒットの違いも整理しておきたいのですが…。
キビタ:ヒットエンドランはランナーがスタートを切り、バッターが打ちます。必ず「This Ball」を打たないといけないサインです。
久保:「次にストライクがくるであろう」という予測のもとに出されるサインです。
キビタランエンドヒットは、ランナーがスタートを切って、バッターは打つか打たないかを自分で判断します。ボール球だったら手を出さないですし、ランナーのスタートがよくない場合は打って助けたり、逆にスタートがいいときは振らないで単独スティールにしたり…。
久保ランエンドヒットはバッターの判断が大事になってきます。
キビタ:プロの場合は、ランエンドヒットがほとんどだと思います。
久保:ヒットエンドランとランエンドヒットは、どのように見分けたらいいでしょう?
キビタ:それは難しいですね。ランナーのスタートがいい場合はランエンドヒットの確率が高いと言えるでしょう。ヒットエンドランの場合は「バッターが必ず振ってくれる」という保証があるので、ランエンドヒットや盗塁よりもスタートが少し遅れます。



ランエンドヒットと2番打者

久保:ヒットエンドランはゲッツーのリスクを減らして、ランナーを次の塁に進める意味合いが強いですね。
キビタランエンドヒットの方がチャンスを拡大するニュアンスがより強いと言えそうです。バッターの正確な判断と打球を転がす技術も求められます。
久保ランエンドヒットで打つか打たないかは一塁ランナーのスタートを見て判断するので、右打者の方が有利になると言われています。左打者だと一塁ランナーの動きが見えにくいから「2番は右打者の方がいい」という監督さんもいます。
キビタ:もちろん左打者でもメリットはありますよ。単純に引っ張るだけで進塁打になる確率が高いですし、左打席に立てば、キャッチャーから一塁ランナーのスタートが見えにくくなるので、盗塁を助けられます。
久保:こうなってくると、監督の好みというか価値観の問題ですね。
キビタ:対戦相手の性格や考え方までわかって試合を見ると、流れがよくわかりますよ。


振らせるためのエンドラン

久保:ヒットエンドランには「ゲッツーを防ぐ」「ランナーを進塁させる」「チャンスを拡大する」といった以外にも、「バッターに振らせる」ためのものもあります。
キビタ:どういう意味ですか?
久保:バットが振れていない選手に「この1球を必ず振ってこい。ベンチが責任を取ってやるから」という意味合いでのエンドランのサインを出すんです。たとえばランナー一塁で2ボール2ストライク、次にストライクがくる確率が高いカウントで、監督が選手の背中を押してやる。関東学院大の鈴木聡監督は、調子の落ちている選手にそういうサインをたまに出します。鈴木監督の師匠でもある小泉陽三前監督も同じようなエンドランをやっていました。
キビタ:振る勇気を後押しするエンドランですか。
久保:もっと極端な例は2003年夏の横浜商大高でした。神奈川の決勝で涌井秀章(西武)のいた横浜高と対戦したとき、2死二塁からエンドランを仕掛けてきました。
キビタ:ゲッツーにもならない状況だし、普通にワンヒットでホームに返れる場面だから、ハイリスクすぎますよ。
久保:常識で考えればハイリスクローリターンです。でも金沢哲男監督は「カウントが3ボール2ストライク。ピッチャーの涌井はコントロールがいい。ボール球はまず来ないだろうから、思い切って振らせるためにもエンドランをかけた」と言っていました。結果は三塁線を破るタイムリー二塁打。河西友輔選手が内角の難しい球を迷いなく振り抜いて、追加点を奪いました。
キビタ:そういうエンドランもあるんですね。
久保:ヒットエンドランは監督のカラーが出やすい部分だと思います。


▲横浜商大高・金沢哲男監督




■プロフィール
キビタキビオ/野球のプレーをストップウオッチで測る記事『炎のストップウオッチャー』を野球雑誌にて連載をしつつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』を軸足に、多彩な分野で活躍中。Twitterアカウント@kibitakibio

久保弘毅(くぼ・ひろき)/テレビ神奈川アナウンサーとして、神奈川県内の野球を取材、中継していた。現在は野球やハンドボールを中心にライターとして活躍。ブログ「手の球日記」

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