身長174センチ、体重78キロ。流行のフィジカルタイプのサイズ感ではなかったが、最速145キロのストレートに変化球を小気味よく織り交ぜ、センバツ決勝までの5試合47回を一人で投げ抜き、自責点2、防御率0.38の破格の数字を叩き出した。
しかし、すばらしいコントロールと投球術にも関わらず、センバツ優勝直後からメディアに踊ったのは「村上の評価は据え置き」のスカウトコメントだった。
まとまりすぎている。完成度の高い投球がかえって、スカウトが高校生投手に好んで求める「伸びしろ」とかけ離れてしまったのだろう。その夏も甲子園に登場した村上だが、松坂大輔(横浜→西武、現・ソフトバンク)、安樂智大(済美→楽天)のようなスターロードには乗れなかった。
器用すぎるゆえの悲劇といえるのかもしれない。
プロ志望届を出せば、下位で指名されたかもしれない。しかし、村上は東洋大進学を決めた。
一見、消極的な選択に見えるかもしれないが、技巧派としては“王道”の選択だ。大学、社会人で投球術に磨きをかけ成功するタイプに自身の将来を当てはめた。
あの激闘から約1年。村上はすでに東洋大の練習に合流し、3月1日の明治大とのオープン戦で“0年生”ながら、3人を三者凡退で斬り、さっそく大学デビューを果たしている。
技巧派としての使命は安定した投球結果。昨春の高校野球を極めたエースが“戦国東都”の4年間で自身のゲームメイクの才能を示せるのか。どんな投手に進化するのか。終わらぬ旅路も高校野球の魅力のひとつだ。
文=落合初春(おちあい・もとはる)