この2年間の交流戦では健闘している広島。しかし、かつては信じられないような惨敗や、大型連敗を喫するなど交流戦は「負け」のイメージが強い。
昨シーズンまでの通算成績は125勝164敗(11分)で12球団中11位。最下位に沈むこと3度。広島にとって交流戦は「鬼門」だったのだ。しかし、鬼門にひと筋の光を差す名場面があった。
1イニング15失点。
2009年6月11日。ロッテ戦(千葉マリンスタジアム)で目を疑うような惨劇が起きた。
悪夢が起きたのは2対7のビハインドで迎えた6回。ここでロッテの打者20人に12安打、4四死球。48分間にも及ぶ猛攻を浴び、日本記録となる「1イニング15点」を献上。2対23と歴史的な惨敗を喫したのだ。
想像してほしい。大好きなチームが1時間近くもボコボコにやられ続け、あり得ない失点を重ねていく様を……。この屈辱は、忘れ得ぬ負の歴史としてファンの脳裏に深く刻まれている。
しかし、そんな地獄絵図にも光はあった。
普通なら、このような不甲斐ない展開となれば、見切りをつけ球場を後にするファンがほとんどだ。ところが、この日のファンの多くは、試合終了まで必死の大応援を送ったのだ。
残ったファンのなかに逆転を信じる者はいなかっただろう。ただ、グラウンドに立つ選手たちにエールを送りたかった。その一心だったと思う。
この献身的な応援は感動を呼んだ。そして、それが今日の広島人気につながったと言っても過言ではない。歴史的な敗戦のなかに小さな光明が見えた名場面だった。
次に紹介する名場面もQVCマリンフィールドで行われたロッテとの1戦。2014年6月15日のことだ。
2014年の広島は、前年に球団初のCS進出を果たした勢いのままにシーズン序盤にスタートダッシュ。26勝15敗、貯金11で首位を快走していた。投打がかみ合った強さを見て、ファンの多くが「今年はいける!」と高ぶっていた。
しかし、鬼門の交流戦にどデカイ落とし穴が待っていたのだ。
交流戦開幕からいきなりの4連敗で勢いを失うと、6月3日の日本ハム戦から6月14日のロッテ戦にかけてズルズルと9連敗。瞬く間に貯金1まで減ってしまう。
崖っぷちで迎えた6月15日。この日の試合に負ければ貯金は底をついてしまう。広島は2011年の交流戦でも悪夢の10連敗を喫していた。悪夢の再来が脳裏をよぎり、10連敗を覚悟したファンも多かっただろう。
運命の試合が始まった。広島が2点を先制するものの先発のバリントンが打ち込まれ、6回を終えて2対5と3点ビハインド。10連敗の悪夢が目の前に迫ってきた。
しかし、7回。主砲・エルドレッドの満塁アーチが飛び出し大逆転! 8回には追加点を挙げ、8対5で試合をものにした。
屈辱の10連敗を回避する値千金の満塁弾に涙するファンもいた。それほど、このときの9連敗はチームにも、ファンにも、重苦しいものだった。
2009年6月14日の西武戦では、珍しい光景にスタンドが大きく沸いた。
白熱した試合は11回を終えて4対4。広島は12回、無死満塁と絶体絶命のピンチに追い込まれる。
ここで広島はここで大胆な守備シフトを敷く。左翼手を内野に置く「内野5人シフト」で大ピンチに挑んだのだ。
この「内野5人シフト」は、ブラウン監督(当時)が好んだ采配で「ブラウンシフト」と呼ばれ、その陣容になるやいなや大きな盛り上がりを見せた。とはいえ、この試合まで「ブラウンシフト」はシーズンで4回、オープン戦1回敷かれていたが、内野ゴロを守備陣の網にかける成功は1度もなかった。
しかし、このときは見事に成功! 「7-2-3」の併殺が成立。レフトゴロからの併殺という珍しい記録が生まれた。ファンの大歓声がこだましたのは言うまでもない。
ここで挙げたエピソード以外にも様々な名場面が生まれる交流戦。普段、試合を行わないチーム同士の激突だけに、イレギュラーな事態が起こりやすいのかもしれない。今シーズンもファンを熱くする名場面の誕生に期待したい。
(成績は6月6日現在)
文=井上智博(いのうえ・ともひろ)