お立ち台に上がった外国人選手がカタコトで話す日本語といえば、「アリガトウゴザイマス」「アシタモガンバリマス」などが一般的。また、カタコトのキメ台詞で締めるのも、最近ではお約束だ。
そこで注目してほしいのはメヒア(西武)。昨季からひとしきりヒーローインタビューに答えたあとに、こう叫ぶのが締めとなっている。
「メヒアさまさまや!」
これを教えたのは栗山巧(西武)とのこと。メヒアの打棒には何度も窮地を救われているので、何度聞いても気持ちが高ぶる西武ファンは多いことだろう。
このキメ台詞は人気沸騰につき、昨季の途中にはTシャツ、タオル、応援旗といった「メヒアさまさまや!」グッズも作られた。球団も全力を挙げてサポート中だ。
「外国人選手と日本食」」「街中で遭遇する外国人選手」などを紹介してきた今連載で毎回のように登場。すっかりおなじみとなったエルドレッド(広島)だが、やはり最終回も登場とあいなった。
来日5年目のエルドレッド。日本語にも慣れたようで、リスニング力も向上。相手が話していることをだんだん理解できるようになってきたそうだ。
日本語習得にも前向きなエルドレッドの姿勢は家族にもいい影響を与えているようで、今年から長女のエブリーちゃんが広島市内の小学校に通い始めるなど、家族揃って支障なく日本での生活を送っている。
またエルドレッドは、長女と次女が踊りながら「それいけカープ」を歌っている動画を、自身のインスタグラムにアップしたこともある。
その動画を見たところ、娘たちは「CARP」の発音がやたらといいうえに、歌詞も完璧に歌いこなし、見事なバイリンガルっぷりを披露していた。
これまで幾人かの人気外国人選手が自慢(?)の喉を披露してきたが、「外国人選手と歌ネタ」で外せないのが、オマリー(元阪神)による「六甲おろし」の熱唱だ。
1994年にリリースされたCD『オマリーのダイナミック・イングリッシュ』に、「六甲おろし」が収録されており、1番を高らかに歌い上げている。
このCDは2014年にデジタルリマスター版として復刻盤が登場しているのだが、某通販サイトで調べてみると、1994年のオリジナル盤の新品は取引価格が3万円弱。今やプレミアCDになっている模様。
流暢に日本語を話していた……という観点で見るとオマリーの日本語は怪しいのだが、阪神電鉄のCMで「コウシエンキュウジョウニハ、チュウシャジョウハ、アリマヘーン」と喋っていたことを思い起こしても、やる気があったことだけは間違いない。
引退した外国人選手のなかで、今振り返ってもクスッとなるのがカブレラ(元西武ほか)のエピソードだ。
オリックス時代の2010年、ちびっ子ファンから「サイン、プリーズ」とねだられるやいなや、「ゴマンエン(5万円)」と切り替えしたのだ。
しかも、あっけにとられるちびっ子に、間髪入れず「ゴジュッパーセントビキ、オーケーネ(50%引き、OKね)」と続けたのだからダブルの驚き。
カブレラが日本球界に足を踏み入れたのは2001年のこと。この商売上手なかけひきは、日本での「10年選手」のキャリアがあったからこそなせる業だったと、筆者は睨んでいる。
昭和のプロ野球界では、引退後に通訳としても活躍したバルボン(元阪急)のような日本語達者がいたが、平成で一番日本語が上手だったのは、カラバイヨ(元オリックス)ではないだろうか。
アメリカ時代、独立リーグを主戦場としてきたベネズエラ出身のカラバイヨ。2009年に来日し、四国・九州アイランドリーグ(当時)の高知ファイティングドッグスでプレーした。
2010年にBCリーグの群馬ダイヤモンドペガサス(以下、群馬)に移籍すると、39試合で15本塁打の活躍。その活躍が目に留まり、その年の7月にオリックスと契約。晴れてNPB選手となった。
しかし、2012年オフに戦力外通告。あきらめないカラバイヨは、アメリカの独立リーグ、2度目の群馬を経て、2014年オフに古巣・オリックスの入団テストに合格。再びオリックスのユニフォームに袖を通すこととなった。
そして、迎えた2015年4月19日の西武戦(ほっともっとフィールド神戸)。試合序盤に殊勲打を放ったカラバイヨがお立ち台に立つ。すると通訳を通さずに「一、三塁でもう1点ほしかった」と流暢な日本語を披露。ファンを驚かせた。
2010年のオリックス在籍時は英語での受け答えだったが、通訳の付かない異国の独立リーグで生き抜くために、言語の腕も必死に磨いたという。その努力のたまものが「日本語力」だったのだ。
もしかすると、2014年にプレーした群馬で打撃コーチを務めていたラミレス(DeNA監督)の「日本で成功するためには日本語をマスターすることも大切だ」というアドバイスがあったのかもしれない。あくまでの筆者の想像だが……。
ちなみに、同年の5月13日の楽天戦(京セラドーム)で上ったお立ち台では、観戦にきていた家族への気遣いだったのか、英語で受け答えをしていた。
日本語を操る外国人選手たち。
カラバイヨは外国を渡り歩く選手のシビアさを感じさせるエピソードだったが、ほかは楽しみながら日本語に触れているのが伝わってきた。
もちろん、外国人選手が日本語の試験を受けなければならないわけではないし、日本語を覚えなければ試合に出してもらえないわけでもない。
ただ、首脳陣やチームメイト、ファンとコミュニケーションをとるためには、覚えたほうがいいに決まっている。意思疎通がスムーズになることで、プレーの質が上がり、ファンからの声援が大きくなるのは言うまでもない。
「外国人選手と日本食」をテーマにしたときにも感じたが、どんな世界でも愛されるのは、その国の文化に馴染もうとしている選手だ。
文=森田真悟(もりた・しんご)