2015年の夏、一番スカウトの評価を挙げたのはこの男ではないか。関東一高、そしてU-18侍ジャパン不動のセンター・オコエ瑠偉。類まれな運動能力と持って生まれた華やかさで人々を惹きつけ、一躍スターダムにのし上がったオコエの熱い夏を振り返る。
並外れた身体能力は下級生の頃から注目されていた。2年夏から長打力を兼ね備える攻撃型の1番打者を担うと、新チームでは3番に。春の選抜では再び核弾頭を務め、チームの8強進出に貢献した。
迎えた最後の夏、オコエは東東京大会で無双した。打っては打率.440、1本塁打6打点。盗塁も6個マークし、トップバッターの役割を十分に遂行。圧巻だったのは、決勝戦で「センター前二塁打」を放ったこと。持ち前の爆発的な脚力はもちろん、中堅手の深いポジショニングとチャージの甘さを見抜いた眼力も冴えていた。
チームはオコエに引っ張られるように、圧倒的な打力と機動力で春夏連続の甲子園行きを決めた。
もはや甲子園の魔物に愛されているのではないか。プレーする喜びを全身で表現している様を見て、そう思えてきた。春に続いての聖地で、オコエは走攻守すべてにおいて驚愕のプレーを披露。
初戦の高岡商(富山)戦で前述のセンター前二塁打を思い起こす「ファースト強襲二塁打」を放つと、続く中京大中京(愛知)戦では左中間への大飛球を背走しながらキャッチ。捕球していなかったら満塁の走者一掃となっていただけに、試合の主導権を渡さないビッグプレーだった。
そして、4強入りを賭けた興南(沖縄)戦ではバットで魅了。同点で迎えた9回表、ゲームを決める2ランをかっ飛ばす。苦しみ続けた内角直球を捉え、オコエはそれまでの鬱憤を晴らすかのごとくバットを放り投げた。そして、声にならない声で叫んだ。
チームは次戦の東海大相模(神奈川)戦で敗れたものの、オコエの活躍ぶりに甲子園は何度も揺れた。
これまでの活躍が認められ、オコエは第27回WBSC U-18ベースボールワールドカップに臨むU-18侍ジャパンの一員に選ばれた。
1stラウンドのアメリカ戦では自慢の足で相手をかく乱。一塁への高いバウンドの当たりで、ベースカバーに入る投手との競争に勝ち内野安打をもぎ取る。そして、モーションを完璧に盗んだスチール。極めつけはけん制に引っかかり挟まれるも、ミスに乗じて一気に生還。三塁を回ってからのスピードと本塁への鮮やかなスライディングは、まさに超人のようだった。
課題と言われていた木製バットへの対応も上々。日本ではあまり見られない独特のボールに苦労しながらも、鋭い打球を弾き返し大会通算.364の高打率を記録。西谷浩一監督(大阪桐蔭)の指導を素直に吸収し、日に日に精度が上がった印象だ。また、守備でも「最優秀守備賞」に輝くなど、改めてこの世代では世界レベルの外野手であると印象付けた。
大会後にはプロ志望、そして将来的なメジャー挑戦を表明したオコエ。これからも彼の動向を追いかけていきたい。
文=加賀一輝(かが・いっき)