即戦力投手への1位指名が続くなか、西武が果敢に単独指名したのは、小柄な高校生捕手だった。その才能を誰よりも買うライターが、思いの丈を書き綴る。
この原稿を書いているのはドラフトの約3週間後。少し時間は経ったが、今もってドラフト時の森の評価に引っかかっている。
僕は過去、高校生でこれほどとらえる能力の高いバッターを知らない。しかし、秋へと向かう中で、森に対するプロ側の評価は妙に落ち着いていった。「体の大きさは関係ない」「キャッチャーとしても十分」と、多くのスカウトが口を揃えながら。
どこも1位指名の気配を見せず、結果は西武が一本釣り。スカウトの声は本音でない部分もあったのだろうが、捕手の前に何よりあの打撃。ここを「ぜひとも…」と1位指名で狙ってくるチームがないことが不思議だった。僕がスカウトなら、間違いなく森をいの一番で獲りにいっただろう。
来年を戦うための戦力補強に重きを置くと、ドラフトではどうしても高校生野手の評価は低くなる。加えて、高校生野手の評価自体、投手を見るより難しいこともあるだろう。
しかし、森は誰が見ても打つ。この先も故障さえなければ間違いなく打つ。それでも、レギュラーで10年、15年、3割を打つ可能性を十分に秘めた選手より、2人に1人以上は例年期待値に届かない「即戦力投手」をどの球団も欲しがる…。今回のドラフトでは、森を単独指名で西武に譲った他球団の動きがもったいなく思えて仕方がなかった。
ドラフトの夜。大阪桐蔭高からも遠くないあるコンビニで、少々アルコールの入った“大阪のおっちゃん”が、吠えていた。
「阪神は何を考えとるんや。なんとかセラも、次も外して、結局、誰や? そら、1位やからええんか知らんけど、なんで森に行かへんねん。キャッチャーいるやろ。地元やろ。藤浪(晋太郎)おるやろ。人気出るやろ。なんでやねん」
多くの阪神ファンが抱えていた思いを「おっちゃん」はストレートに吐き出した。さらに「阪神はちょっと成長した思うとったんやけどな」と嘆きは続いた。
「今年になって森、森言わんかったやろ。これは作戦入っとるな、思うとったんや。黙って、当日にドカンと1位・森で行くんやなと。それがなんや、そのままかい!よりにもよってまた西武や。桐蔭から何人獲られとんねん!」
さらに「おっちゃん」は持論を展開。さすがにいきなり正捕手は難しいだろうから、初めは藤浪の登板日のみの限定起用で「サンデー晋ちゃん、サンデー友ちゃん」のプランまで披露。そして最後にこうダメを押し、ボヤキを締めた。
「もうわかっとんねん。交流戦で森に打たれて阪神ファンが言うんや。『なんで森を獲らへんかったんや!』って。見えとるわ」
確かに甲子園で春夏連覇、藤浪との黄金バッテリーの再結成。捕手としてだけでなく野手の生え抜きスター候補の誕生。浜風を味方に逆方向を得意とする打者のタイプとしても…。阪神が求める条件は揃っていた。使える投手は毎年欲しいだろうが、そこは毎年一定の候補が出てくる。しかし、第二の森友哉は、次にいつ出てくるかわからないのだ。
次号「今から抱く4割の期待」
(※本稿は2014年11月発売『野球太郎No.007 2013ドラフト総決算&2014大展望号』に掲載された「30選手の野球人生ドキュメント 野球太郎ストーリーズ」から、ライター・谷上史朗氏が執筆した記事をリライト、転載したものです。)