神様・仏様・佃様! 2週連続3連投、6試合連続先発の佃勇典が拓大に残したもの
東都大学野球秋季リーグ第7週が先週行われ、全6校のなかで一足早くリーグ戦全日程を終えた拓殖大。結果は5勝9敗で、勝ち点は第5週に中央大から挙げた「1」のみ。第7週で未消化に終わった中央大vs青山学院大3回戦(10月23日開催予定)で青山学院大が勝利すれば、拓殖大が最下位となり入替戦に回ることになる苦しいシーズンとなった。
※青山学院大が敗戦の場合は、拓殖大が5位で入替戦回避。
だが、そんなチーム成績の中でも、手放しで称賛を送りたい選手がいる。チームが勝利した全5試合で勝利投手となった佃勇典(4年・広島商高)だ。
▲投球写真(撮影・高木遊)
第6週・第7週で行われた最後の6試合では、なんとすべて先発。6試合連続先発、第5週も合わせると8試合連続登板という、とてつもない鉄腕ぶりを発揮した。
▲【拓殖大・佃勇典6戦連続先発の軌跡】打ち込まれた翌日の修正能力の高さが窺える
今季の拓殖大は、好投手を複数抱えていたはずの投手陣で故障者や不調に陥る選手が続出。さらには大黒柱で1年春から正捕手の杉原賢吾(2年・明徳義塾高)もケガで途中離脱。打線も春季よりは打てるようになったかと思われたものの、好機で凡打が続いた。
そんな煮え切らない展開の中、拓殖大に光りを与えたのが佃だった。春季にも5勝を挙げ、チームの1部残留(4位)に貢献した佃は、さらなるレベルアップのためカットボール習得を目指した。だが、この夏の投げ込みで右ヒジに痛みを覚えてしまい、開幕直後は先発を回避。
それでも、翌週から先発に復帰すると、その後はフル回転。3回戦までもつれ込んだ第5週の中央大戦では先発とロングリリーフで2勝を挙げ、チームに今季初の勝ち点をもたらした。
そして、この6連投である。結果として、2カードとも勝ち点を挙げることは、できなかったものの、この2勝は最下位を争う青山学院大に対し「勝率」で大きなプレッシャーを与えたことは間違いない。
普段は厳しい内田俊雄監督も「佃がよう放ってくれました」と称賛。「だからこそ味方が失策や拙攻で応えてやれなかったのが悔しい。監督の責任です」と、佃の労をねぎらった。
まだ青山学院大の状況次第で入替戦に回る可能性はあるが、これで神宮の登板は最後となったかもしれない佃。最後の駒澤大戦後は、さすがに「疲れました」と話しながらも「最後となるかもしれない神宮のマウンドで悔いなく投げることができました」と清々しい表情で語った佃。
卒業後は、地元・広島のJR西日本へ進む予定だ。内田監督は「黙々と投げ込んで自分の投球スタイルを作った。人間的にもしっかりしているし、体も丈夫。“ミスター社会人”と呼ばれるぐらいの投手になって欲しいです」と目を細めた。
彼の粘り強い投球は、拓殖大がもし入替戦に回ったとしても、決して輝きが失われるものではないだろう。記者室では「どっちが勝ってほしいとかは良くないけど、これだけ投げてる姿を見ると応援したくなっちゃうなあ」という声も聞かれた。
また最下位を逃れ、入替戦を回避したとなれば、いずれ拓殖大が「戦国東都」を初制覇した暁には「あの佃の連投があって、1部残留を決めたから今がある」と語られることだろう。
弱音を吐かず、内に秘めた闘志でクールなマウンドさばきを見せた佃が残したものは、記録という結果だけにはとどまらない、とてもとても大きなものだった。
佃勇典(つくだ・ゆうすけ)/178センチ82キロ。右投左打。広島県広島市出身。オール神崎ソフトボールクラブ〜広島中央リトルシニア〜広島商高〜拓殖大。大学通算11勝。左右高低を存分に使った制球力が最大の売りで、ストレート・変化球ともに高い精度を持つ。卒業後は地元・広島のJR西日本へ入社予定。
■プロフィール
文=高木遊(たかぎ・ゆう)/1988年、東京都出身。幼い頃よりスポーツ観戦に勤しみ、東洋大学社会学部卒業後、スポーツライターとして活動を開始。昨年は東都大学野球春・秋1部全試合を取材。大学野球を中心に、アイスホッケー、ラグビー、ボクシングなども取材領域とする。高木遊の『熱闘通信(http://www.plus-blog.sportsnavi.com/buaka/)』随時更新中。twitterアカウントはhttps://twitter.com/you_the_ballad
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