苦労人に野球の神様が微笑んだ。阪神の捕手・岡崎太一はプロ13年目だが、通算出場数はわずか100試合程度。表舞台に出てくることは少ないが、6月3日、4日の日本ハム戦では2日続けてヒーローとなった。
3日はプロ初アーチとなる逆転2ラン、4日は延長11回にサヨナラ打をマーク。守備が持ち味の女房役がバットで結果を残すと、チームも盛り上がって今後につながるだろう。
DeNAでも、これまであまりスポットライトを浴びることのなかった選手がスターの階段を昇り始めている。プロ5年目の宮崎敏郎がそれだ。
宮崎は昨季10本塁打を放ったパンチ力のある打撃が武器だが、今季は柔らかいバットコントロールが目立つ。6月11日に規定打席に達し、18日時点で打率.337をマーク。セ・リーグの首位打者に立っている。ロペス、筒香嘉智と組むクリーンアップは相手投手にとって脅威だ。
交流戦史上最多本塁打を誇る中村剛也(西武)。交流戦通算71本目のアーチが出たのは、6月14日、甲子園での阪神戦。右中間スタンドへ鮮やかな3ランを放った。
これが甲子園での初本塁打。12球団すべての本拠地で本塁打を記録する快挙でとなった。1軍デビューした2003年から7年間で11球場を“制覇”していたが、全本拠地制覇弾となる一発はリーチをかけてから8年越しの難産だった。
もしかすると、交流戦史上初の三冠王が生まれるかも……? そう思わせる猛打をふるったのが柳田悠岐(ソフトバンク)。レギュラーシーズンから続く連続安打記録を「21」まで伸ばし、4試合連続でお立ち台に立つことも。三冠には届かなかったが打率.338(11位)、7本塁打(2位)、23打点(1位)は見事な成績だ。交流戦MVPの最有力だろう。
今季の交流戦は巨人の連敗記録が大きな話題を呼んだ。しかし、大型連敗を喫していたのは巨人だけではなかった。同じセ・リーグで、同じ東京を本拠地とするヤクルトも「勝てない地獄」にハマっていたのだ。
交流戦前の最後のカード・中日戦(5月28日)に勝ってから、1つの引き分けを挟んで10連敗。不名誉な記録が止まったのは6月11日、ZOZOマリンスタジアムでのロッテ戦でのこと。ちょうど2週間ぶりに勝利の味を味わった。
今季もセ・リーグ勢が苦しい戦いを強いられるなか、最終戦までソフトバンクと最高勝率を争ったのが広島。昨季のリーグ覇者が堂々とパ・リーグ勢に立ち向かった。
とりわけ目立ったのが新旧「神ってる」男。期間中に支配下登録を果たしたバティスタが1軍初打席でホームランを放つと、翌日もアーチをかける大暴れ。昨季「神ってる男」を襲名した鈴木誠也も6本塁打(3位)をマーク。4番として存在感を発揮した。
今年の交流戦屈指の珍事といえば、この出来事が思い出される。マレーロ(オリックス)の「本塁踏み忘れ」事件だ。
6月9日のオリックス対中日。オリックスが1点を追う5回、無死一塁から新外国人・マレーロが豪快にオーバーフェンスの当たりを放つ。これが来日初アーチとなるはずが、まさかのホームベースを踏み忘れる大チョンボ。
中日の捕手・松井雅人のアピールプレーが成立し、幻の本塁打となった。ちなみにマレーロは翌10日の試合で正真正銘の来日初アーチを放っている。
これもある意味では珍事なのかも。ロッテの新キャラクター「謎の魚」が国内外で話題を呼んだ。
2月に卒業した「COOL」に代わるキャラとして「第1形態」がお披露目されると、交流戦直前には奇妙な動きをする「第2形態」が登場。チームの他のマスコットだけでなく、セ・リーグの各マスコットにもさまざまな反応をされた。
そして、6月11日のヤクルト戦で骨になる「第3形態」に進化。マスコット界の巨匠・つば九郎にいじられたところを見ると、この日の進化はかなり“戦略的”と感じた。
昨年オフ、巨人から日本ハムに移籍した大田泰示。トレードの影響で今季は例年以上に注目が集まった中、未完の大器からの「覚醒」を予感させる活躍をしている。
6月9日から11日にかけての巨人戦では10打数7安打2本塁打の大暴れ。右へ左へと豪快なアーチをかけ、古巣に強烈な恩返しを見せた。
また、11日には日本ハムの先発・村田透がNPB復帰後初勝利を挙げた。大田も村田もかつての巨人ドラ1戦士。そろって北の大地で古巣を相手に躍動した。
6月4日、荒木雅博(中日)が史上48人目となる通算2000安打を達成。美馬学(楽天)からライト前へ打ち返し、大台に乗せた。花束贈呈には入団時の監督だった星野仙一氏(現・楽天副会長)が登場し、荒木の頭をクシャクシャに撫でたのも印象的だった。
2000安打達成時の通算33本塁打は最少。それだけ文字通りにヒットを積み重ねた。「努力は必ず報われる」とあるアイドルが発言したのは有名だが、それをプロ野球の世界で証明したのだ。
楽天のエース・則本昂大が球史に名を残した。プロ野球記録を塗り替える8試合連続2ケタ奪三振を達成。6月1日の巨人戦で7試合連続とし、野茂英雄氏(当時近鉄)が持つ日本記録を更新。続く8日のDeNA戦でも12奪三振をマークし、8試合連続に。これでメジャー記録に並んだ。
15日のヤクルト戦で惜しくも記録が途絶えたが、エースの風格を感じさせるには十分すぎる奪三振記録だった。
2017年の交流戦はよくも悪くも巨人の話題で記憶されるのではないか。まずは、球団ワースト記録を更新する13連敗を喫したこと。連敗が重なるごとにメディアもファンも大騒ぎとなった。
挙句の果てには堤辰佳GMの退任、鹿取義隆新GMの誕生と球団首脳の責任問題にまで及んだ。
そんな中で明るい話題だったのは、6月14日のソフトバンク戦での「継投によるノーヒットノーラン」達成したこと。移籍後初登板となる山口俊が6回を無安打に抑えマウンドを降りると、後を継いだマシソンが2回、カミネロが最終回を被安打ゼロのまま締め、セ・リーグでは初、日本球界では4度目のレアな記録を達成した。
パ・リーグが今季も勝ち越しを決めた交流戦だが、総合的にはさまざまな話題を呼んだのではないか。マンネリ化を指摘されることもあるが、レギュラーシーズンでは実現しない対決やマスコットの競演を楽しみにしているファンは多い。今後も交流戦が盛り上がることを期待したい。
(成績は6月18日現在)
文=加賀一輝(かが・いっき)