週刊野球太郎
中学、高校、プロ・・・すべての野球ファンのための情報サイト

子どもたちの“意外な”ケガの原因とその対処法、対策とは…(第三十二回)

 子どもを野球好きにさせるには? 子どもを将来野球選手にしたい! そんな親の思惑をことごとく裏切る子どもたち。野球と子育てについて考える「野球育児」コーナー。野球ライター“ハリケン”こと服部健太郎さんが実話を交えて、子どもたちのケガの原因とその対処法、対策を語ります。


元同僚コーチからかかってきた相談電話


 先週の土曜日の昼下がり、次男が所属している野球部の練習試合を観戦していると、携帯電話が鳴った。去年までコーチを務めていた少年野球チームのBコーチからだった。

「すみません、今ちょっといいですか?」
「うん、いいよ、どした?」
 Bさんとは最後の2年間、共にA級を担当し、さまざまな喜びも苦しみも共有したいわば戦友。私のやろうとしていた野球の一番の理解者でもあった。

「実はある6年生の子が『ヒジが痛い』と訴えてまして…」
「ありゃりゃ」
「明日の日曜日、大事な大会が重なっていて、その子にもマウンドに上がってもらわないと、投手陣が回らず、試合も落としそうな状況なんですけど、やっぱり投げさせちゃだめですよね…?」

 聞けば、度々、ヒジ痛を発症してきた経緯のある選手らしく、痛くなっては休むを繰り返してきたが、痛みが発症する間隔が徐々に短くなっているのだという。

「痛みはヒジの内側?」
「ぼく、今仕事中で、そこまでわからないんです。現場から痛がってるという報告を受けただけの状況で。とりあえず医者にいかせてくれと、その子の親には伝言してもらったんですけど、土曜日の午後にあいてるスポーツ整形少ないんで、果たして行ったのかどうか…」

「子どもやから、靭帯とかじゃなく、まず骨の問題やと思うけど、炎症の間隔が短くなってるのは、なんかいやな予感がするね」
「明日、やっぱり投げさせちゃだめですよね…」
「医者の診断も受けてなくて、痛みがある以上、おれなら、絶対に投げさせないよ。ってか、今までそういう風に徹底してきたやん。子どもらの体に無理を強いてまで、とりに行かねばならない勝利など、この世にないって」
「そうですよね。やっぱりそうですよね…」

指導者として下すべき結論とは?


 Bさんは今年最上級チームの責任コーチを担当している。各大会でいい結果を出さねばならないというプレッシャーも相当かかる立場だ。「貴重な戦力を投げさせない=かなりの確率で負ける、という現実を簡単に受け入れていいものか…」という葛藤が電話越しに伝わってきた。

「そうですよね…。大事な大会を前にケガ人が出ること自体が、今のうちのチームの実力ということですよね…」
 自身に言い聞かせるような言い方だった。

「Bさんになにかヒジ痛の原因として思い当たる節はあるの?」
「それがないんですよ…」
「どこかで球数無理してしまった試合があったわけじゃなく?」
「いや、それはないです。服部さんと一緒にやってたときと同じように1日85球上限は徹底して守ってます」
「指導者の目の届かない、平日の自主練習でがんがん投げているとか…?」

「以前、平日に練習しすぎて、ヒジ痛を起こしたんです。その子の親に頼むからそこは気をつけてくれ、とお願いしたので、それはないとは思うんですけど、実際の所はわかんないですね…。明日もたぶん、無理してでも投げさせてくれって、その子も、その親も言ってくると思うんですよ。やっぱり勝ちたいでしょうから。その場合、どうしましょう…?」

「そりゃ子どもは多少無理してでもやりたがるよ。目先の結果にこだわる親だったら、『親の私が許可を出すから、どうか投げさせてほしい』とかって言うよ。でも、その家庭の問題だけじゃないからなぁ。周りの子どもたちだって、『そういう無理をうちのチームはさせるチームだったのか!?』って思うだろうし、それは球育上、絶対によくないことやし。たとえ勝率が落ちても、今まで通り、ヒジや肩に不安がある選手は無理させない、を押し通したらいいんちゃう?」

「わかりました」
 もしもまだ医者に行ってなかった場合、土曜日の夜でも診察している接骨医、整形外科をいくつかBさんに伝え、電話を切った。
 翌日、Bさんから再び、電話があった。沈んだ声だった。
「診断結果が出ました。ヒジのはく離骨折だったそうです…」

原因をはっきりさせなければ前へ進めない


 ヒジの内側の米粒大の軟骨が剥がれ落ちる、はく離骨折。当分の間、ノースロー厳守なのはもちろん、バッティング行為も厳禁、と医者に言い渡されたそうだ。

「もう、小学生の間はピッチャーさせないくらいに考えたほうがいいんでしょうね…。その子が中学や高校で野球をつづけることを考えると、今、とてもじゃないけど、無理させられないですよね…」

「だよなぁ…。まぁ子どもは骨が弱い分、剥がれ落ちやすいけど、大人に比べると、くっつくのも早いっていうから」
「しかし、球数をこれだけ気を付けても、折れてしまう時は折れてしまうんですね…」
「そうなんだよな…」
「そういえば、結構、ボールが指にかかるタイプなんですよね。それもあるのかなぁ…」
「そうかぁ…」

 我が家の長男、ゆうたろうも小5の秋に、試合中にヒジのはく離骨折を起こしてしまった経験がある。マウンド復帰までに約半年、完投できるようになるまでに、8カ月を要した。しかし、故障を起こした試合の球数は上限に達する手前の段階の72球。「これでもケガをしてしまうのか…?」と、私自身、かなりのショックを受けた。

 肩やヒジを痛めると、よく「フォームが悪いんじゃないのか?」という話になりがちだが、その時点の息子のフォーム自体は特に悪いとは思わなかった。

「フォームが特に悪くなく、球数にも気を付けていたのに、骨折してしまうなんて…。今回はまだ自分の息子だったけど、人様の子だったらと思うと、怖くて指導者できへんわ…」

 以来、自分なりにいろいろと調べてもみたし、仕事で出会った指導者などにも、取材の延長で相談したり、意見を求めてみたりもした。そんな中、ひとつの興味深い見解が複数の人たちから浮かび上がった。

「息子さん、体の大きさの割にはいい球、投げてんじゃない?」

球威アップが引き起こすワナがある!?


 いわれてみれば、小5の時点では息子は体が大きい方ではなく、どちらかというと成長が遅れているタイプだった。しかし、小5の夏頃に体重移動のコツを覚え、秋にかけ、短期間にストレートの球速がぐんぐん伸びていた時期でもあった。ボールが指にしっかりとかかるようにもなり、ベース際でグーンと伸びるイメージの球もくるようになっていた。そんな矢先に起きた骨折だった。

「体の割にボールがきている子と言うのは、危険なタイプでもあるんです。合理的なフォームを習得することによって、『その体で、そんなボールが投げられるの!?』と言われるような球威やスピードを手に入れたものの、今度はボールの強さにヒジや肩がついていけない、という現象が起きてしまうことは十分ありえます。

 特にボールが指にしっかりとかかるタイプはボールに加えた力がヒジや肩に、はねかえっていきやすい。成長期を終えた年代だと、骨も固まってるから、そう簡単に壊れなくても、まだ骨の軟らかい、小学生なんかだと、骨のほうが負荷に負けてしまって、わりと簡単に剥がれ落ちてしまう。

 だから体の割にいいボールがいっている子は、通常よりもさらに球数の上限設定を低くしたり、スローボールを交えるなどし、全力投球を減らしたりする工夫をしないと、ケガのリスクが高くなってしまう」

 思い起こせば、当時の長男は全ての球を全力で投げていた。
 合理的なフォームを手に入れることによって球威を入手しても、その一方で大きな落とし穴もある。正直、それまでにそういう発想は自分になかった。
指導の世界とはかくも難しい。つくづくそう思わされた2008年の暮れだった。
(次回に続く)



文=服部健太郎(ハリケン)/1967年生まれ、兵庫県出身。幼少期をアメリカ・オレゴン州で過ごした元商社マン。堪能な英語力を生かした外国人選手取材と技術系取材を得意とする実力派。少年野球チームのコーチをしていた経験もある。

記事タグ
この記事が気に入ったら
お願いします
本誌情報
雑誌最新刊 野球太郎No.32 2019ドラフト直前大特集号 好評発売中
おすすめ特集
2019ドラフト指名選手一覧
2019ドラフト特集
野球太郎ストーリーズ
野球の楽しみ方が変わる!雑誌「野球太郎」の情報サイト
週刊野球太郎会員の方はコチラ
ドコモ・ソフトバンク
ご利用の方
KDDI・auスマートパス
ご利用の方