「まさか」の阪神タイガース4連勝で幕を閉じたクライマックスシリーズ(以下CS)ファイナルステージ・巨人vs阪神戦。阪神は長年、CSファーストステージという鬼門で苦しんできただけに、鬼門を突破した勢いがこれほどまでスゴいとは、と改めて驚かされる。
どの試合も阪神のワンサイドゲームだった印象も強いが、元々巨人にアドバンテージの1勝があるだけに、やはり第1戦に勝って「1勝1敗」に持ち込めたことが大きい。そう考えると、ステージの鍵は第1戦の7回裏、巨人の攻撃にあったのではないだろうか。
この試合、7回表までは4−0で阪神が大量リード。阪神の先発・藤浪晋太郎はカットボールを中心に巨人打線の打ち気をそぎ、得点を許さない。しかし7回裏、先頭打者の巨人4番・阿部慎之助が反撃の狼煙を上げる。4球目を強振すると打球はライトスタンドに飛び込む本塁打となり4−1。ここからさらに巨人の猛攻が続く。
5番・アンダーソンがセンター前ヒットで出塁すると、阪神ベンチから投手コーチが飛び出す。この回から、カットボールが「お辞儀」をしだしてなかなかストライクゾーンに入らなくなっていた藤浪。テレビの解説を務めた江川卓も「ここで交代でしょう」と言葉を挟むが、阪神ベンチがとった選択は「藤浪続投」だった。しかし、村田修一、亀井善行が連打で続き、巨人は無死満塁というビッグチャンスを迎える。
江川は再び「続投でいいのか」と問題提起をするが、阪神ベンチは動かない。むしろ動いたのは巨人サイド。代打攻勢で攻め立てる。ところが、代打・セペダは引っ掛けて最悪のダブルプレーに。続く井端弘和も2ボール1ストライクというバッティングカウントから打ち上げてしまい、ファーストフライでスリーアウト。藤浪は本塁打で1点献上してしまった後の、無死満塁というピンチを「0」で抑えたのだ。
2ボール1ストライクから井端へ投じたこの回の26球目。その打球が一塁手・ゴメスのミットに収まるのを見届け、藤浪は右手を振り下ろしながら大きく吠えた。結局、阪神は8回から福原忍、高宮和也、呉昇桓とつなぎ、4−1のまま勝利。この第1戦での勝利でさらに勢いを増した阪神は、2戦目以降も、第2戦を5−2、第3戦を4−2、第4戦を8−4と巨人を寄せ付けず、見事、日本シリーズの切符を獲得した。
だからこそ思う。もし、巨人が第1戦の無死満塁という大チャンスでもう1点でも追加点を奪えていれば、試合の流れもステージ全体の流れも大きく変わっていたのではないだろうか、と。それだけに、あの回、藤浪が投じた26球は、ステージの分水嶺となり得る26球だったとも考えられるのだ。
9年ぶりに日本シリーズ進出を決めた阪神タイガース。もし日本シリーズを制することができれば、あの1985年以来、29年ぶりの日本一となる。1985年は「史上最強の助っ人」こと、ランディ・バースの力が大きかったが、今年の阪神の助っ人パワーは、ある意味で1985年以上だ。
首位打者・マートンに、打点王・ゴメス、最多勝・メッセンジャーに、最多セーブ・呉昇桓。外国人助っ人が揃いも揃って活躍した例は、日本球界においても初めてのことかもしれない。
CSでも、この助っ人4人衆の活躍が目立つ。メッセンジャーは2戦して1勝、防御率1.38。呉昇桓は全6試合に登板して4セーブを挙げて、CSのMVPに選ばれている。打つ方でも4番・ゴメスがチーム最多の8打点を挙げ、今ひとつ調子に乗り切れていなかったマートンも、巨人との最終戦で先制のホームランを放った。
負けたら最後、勝った方が日本シリーズへ……。最終戦までもつれ込んだ、パ・リーグのクライマックスシリーズ・ファイナルステージ。歴史に残る大熱戦は、レギュラーシーズン1位のソフトバンクに軍配が上がった。シーズン後半から、このCSでもピリッとしない戦いが続いたソフトバンクを3年ぶりとなる日本シリーズ進出の最大の立役者は、ファイナルステージ第1戦からプロ初の中4日で最終決戦のマウンドに立ち、勝利投手となった大隣憲司だ。
横滑りのスライダーが右打者の懐に食い込み、渾身のストレートが左打者のアウトコース低めいっぱいに決まる。誰もが緊張する大一番の試合でも、淡々とアウトの山を積み重ね、テンポのよい投球は味方打線にも好影響を与えた。7回を6安打、1四球、6奪三振、無失点に抑えた「大隣の99球」は、まさにアッパレ。一世一代の見事なピッチングだった。
プロ8年目、29歳の左腕は天国も地獄も味わった。2006年ドラフトの目玉として各球団の争奪戦の末、希望枠でソフトバンクに入団。1年目はやや期待を裏切るも、2年目は11勝8敗で2ケタ勝利をマーク。2012年は25試合に先発登板して12勝8敗、リーグ最多の3完封を記録するなど絶好調。翌2013年にはWBC日本代表に選出されるなど、絶頂期を迎えた。
しかし、大隣が体に異変を感じたのはその年の4月。WBCの激闘から帰国して間もなくの時だった。足先のしびれを訴え、当初はブロック注射などの治療をしながら1軍での登板を続けたが、5月末にはとうとう足裏の感覚がなくなってしまう。精密検査で黄色靱帯骨化症と判明すると、6月21日に手術に踏み切った。
その後、懸命のリハビリを経て本格復帰を目指した大隣は、今年7月13日の日本ハム戦で408日ぶりに1軍のマウンドに帰ってきた。復帰後は9試合に登板して3勝1敗、防御率1.64。地獄を一度経験した男だからこそ、大一番の試合でも淡々と、平常心で投げることができるのだろうか。リーグ優勝を決めた10月2日のオリックス戦でも6回無失点と、大隣は復帰後、間違いなくひと皮剥けた印象がある。
10月25日から敵地・甲子園球場で開幕する日本シリーズ。セ・リーグ1位の巨人をスイープ(4連勝)し、日本シリーズに乗り込んでくる阪神のチーム状態は、今シーズンで一番いい。特に、タフな呉昇桓を筆頭に、安藤優也や福原忍ら、安定感あるリリーフ陣に、メッセンジャーや藤浪晋太郎、能見篤史の先発陣も強力で、攻略するのは容易ではない。
対するソフトバンクは正直、不安要素のほうが目につく。中でも、優勝の立役者とも言える中継ぎ・抑え陣が、まだピリッとしない。シーズン後半から見られた疲れが尾を引き、その状態でファイナルステージも第6戦までフル回転。そして、25日からの日本シリーズ……。この数日でリフレッシュするのは難しい。
それでは、ソフトバンクはどうすれば秋山幸二監督の花道を飾ることができるか。そこで提案したいのが、攝津正の中継ぎへの配置転換だ。シーズン後半から先発で結果が出ていない攝津は、中継ぎ経験が豊富。ソフトバンクの先発陣は中田賢一、武田翔太、スタンリッジ、大隣憲司と(一応の)頭数はいるので、攝津への刺激と中継ぎのコマを増やす意味で、可能性はある。