子どもを野球好きにさせるには? 子どもを将来野球選手にしたい! そんな親の思惑をことごとく裏切る子どもたち。野球と子育てについて考える「野球育児」コーナー。
「足がどんどん大きくなってる時期だから、スパイクがへたる前にサイズの方が合わなくなっちゃう」
「洗濯を楽にしようと思って何枚も買い揃えたアンダーシャツも、体がワンサイズ大きくなったらまた全部買い替えないといけないもんねぇ」
「うちなんから幼稚園から入部してるから6年生の卒団までにどれだけ買い換えないといけないの!? 考えただけでぞっとするわよ」
「体が成長するのは喜ばしいことなんだけどね〜」
少年野球チームに所属する子どもを持つ母親たちのそんな嬉しい悲鳴をよく耳にしたものだ。
どうせすぐにサイズが小さくなるのだからと、スポーツ店のプライベートブランドのようなリーズナブルな値段の製品で揃えたり、ネットの特売品を購入したり。先を見越して、ジャストサイズではなく、かなり大きめなサイズのものを購入する派もわりと多い。買い替えにかかる費用を抑えるべく、母親たちもいろいろと対抗策を練る。
妻も同様によくぼやいていた。安さありきで道具を揃えるのもどうかと思うし、子どもらの中で流行しているブランドなどもある。「これが欲しい!」とわが子が望む商品があるならば、極力買ってあげたいが、購入予算と相談すると、そんなことばかりも言っていられない。
我が家の場合は2歳違いの息子2人が同じ少年野球チームに在籍していたため、長男が着れなくなったものを次男が受け継ぐ、いわば「お下がり作戦」を使用することができたのは幸いだった。お下がりが基本前提となっているゆえ、長男の身につけるものの多くはジャストサイズで新品。次男が受け継ぐ頃には商品もすっかりくたびれ、スパイクなどは歯がすり減った状態で受け継がれることになってしまうが「下の子の宿命」と割り切っていたのか、文句を言うこともなく、兄のお下がりを当たり前のように身にまとっていた。
妻はよく「チームユニホームのアンダーシャツとスパイクの色が黒でよかった」と口にしていた。少年野球チームのユニホームはカラフルなものも多く、指定のアンダーシャツが赤、緑、オレンジ、ブルーといったケースも珍しくない。
赤、緑、ブルーといっても、その色の中で、淡い系、濃い系といったようにいくつか分かれており、チームによっては別注で作らせているため、指定されたスポーツ店でしか買うことが許されていないこともある。そうするとインターネットやスポーツ店の特売品を購入するという作戦をとることができなくなるのだ。スパイクも同様で、青地に白ラインや白地に赤ラインといったように凝っているチームもある。たしかに試合の時には全身が統一されていて、見ていても実に格好いいのだが、凝っている分、購入場所、経路が限られがちだ。
その点、アンダーシャツやスパイクが黒一色だと、店を問わず購入できるし、型落ちや訳ありの特売品なども手に入りやすい。つまり、入ったチームのユニホームの色によって、子どもの野球道具にかかるランニングコストは同一ブランド、同一商品だったとしても、多少なりとも変わってくると考えていい。
黒以外では紺も応用範囲が広い。チーム選びの段階で、カラフルなユニホームのチームを見ると子どもサイドは「ユニホームがかっこいいからあのチームに入りたい!」となりがちだが、「子どもの野球にかかるランニングコストを少しでも抑えたいのなら『黒、紺』を基調としたユニホームのチームに入れるべき」というのは、水面下におけるお母さん方の共通認識だ。
さらに言うと、試合用のユニホームのパンツがラインも何も入っていない白一色のチームもお母さん方にひそかな人気がある。廉価で購入可能な練習用のパンツで代用できるからだ。
お下がり作戦にかなり助けられた我が家だったが、長男が中学に上がると状況に変化が生まれた。
長男が入団したクラブチームのチームカラーが赤だったのだ。アンダーシャツは赤。スパイク、トレーニングシューズも白地に赤ライン。靴関係はチームに出入りしている業者から言い値で購入するほかなく、赤のアンダーシャツも、黒に比べるとやはり購入の選択肢が狭くなる。
しかも次男はまだ少年野球チームに在籍していた。そう、お下がり作戦が使えなくなってしまったのだ。次男はようやく新品を身につけられる喜びに浸っていたが、家庭の中で回せなくなった分、家計的には痛い。
それでも妻は「まぁ、2年経ったら弟は兄貴と同じチームに入るだろうから、赤関連のものは弟に回せるか」と企んでいたのだが、2年後、次男が選んだのは中学校の部活動で、チームの試合用ユニホームのアンダーシャツの色は紺でスパイクは黒一色。しかも「1年生は練習で紺アンダーを着ることは禁止。白のアンダーシャツの着用のみ許される」という暗黙の部内ルールがあるらしく、結局最初に紺と白の両方の色を数枚ずつ購入する必要があるというなんとも不経済な仕組み。
お下がり生活に戻ることをおそれた次男があえて兄と違うチームを選んだという説もあるが、なにはともあれ、我が家のベランダの物干し竿には、赤、白、紺という色とりどりのアンダーシャツがぶらさがる日々が訪れた。
そんな我が家に今年、アンダーシャツ関連における久々のグッドニュースが訪れた。長男が紺のアンダーシャツを使用する高校に入学したのだ。
「兄弟揃ってアンダーが紺! 久々に揃ったね!」と喜ぶ妻。
「ピチピチ系のハイネックタイプが欲しい」という兄弟のリクエストを受けて、先日アンダーシャツを買いに行ったのだが、現在、2人の体格はほぼ一緒。アンダーシャツを共有できることが判明し、同サイズのものを5枚一括購入。「毎日洗濯しなくてもよくなるから楽になる〜」と妻も大喜びだ。
そんな妻の次の懸念材料は次男の高校の進学先。
「これで智辯学園みたいなユニホームのとこいかれたら、また色が分かれちゃうよ。できたらアンダーシャツの色が紺の高校にいってくれないかなぁ…」
そんな理由で高校を選べなんて私の口からはとても言えません。
文=服部健太郎(ハリケン)/1967年生まれ、兵庫県出身。幼少期をアメリカ・オレゴン州で過ごした元商社マン。堪能な英語力を生かした外国人選手取材と技術系取材を得意とする実力派。少年野球チームのコーチをしていた経験もある。