遂に開幕したプロ野球2016。最初の3連戦を終え、この号が出る3月29日には、昨季のセ・リーグ王者、東京ヤクルトスワローズが本拠地・神宮球場での開幕戦を迎える。つまり、スタジアムオフィシャルDJのパトリック・ユウさんにとっても9年目のシーズンが始まることを意味する。
今季のスワローズでもっとも注目されている男、といえば、トリプルスリー男、山田哲人であるのは間違いない。特に、昨季の日本シリーズ第3戦で生まれた「3打席連続弾」をシーズンでも見たい!というファンは多いはずだ。当時の様子を、DJブースにいたパトリックさんはどう見ていたのだろか?
「これ、もう1本いっちゃうよ、と喋っていたら本当にいっちゃいました。もう脱帽です。ファンの中には感動のあまりに号泣してる人もいて、僕ももらい泣きしましたね。昨シーズン、優勝決定シーン以外で、神宮が1番盛り上がった場面なんじゃないでしょうか」
山田哲人といえば、2010年のドラフト時、「外れ外れ1位」だった、というのは有名なエピソード。このとき、ヤクルトが抽選で外した“逃した魚”が斎藤佑樹(日本ハム)だった。ある意味で「因縁の2人」ともいえる両名は、ドラフト直後にも因縁を生んでいた。入団したヤクルト、日本ハムの入団会見の日時がまったく一緒だったのだ。
「スワローズの入団会見で司会を務めたのが僕でした。向こうは斎藤投手の存在だけで注目度抜群。当然、こっちだって何かしたいじゃないですか。そこで、山田選手に得意なことを質問してみたら、『逆立ちです』答えたので、『じゃあここで逆立ち、見せてもらってもいいですか?』と。山田選手は迷わず、アドリブで逆立ち歩きをしてくれました」
実際、山田のこの逆立ちパフォーマンスは「ハンカチ王子は逃したが「逆立ち王子」が現れた」と各メディアで大きく取り上げられた。
「実は終わったあと、『もしあれで怪我でもしたらどうするんだ』と怒られてしまいました。もちろん、怒られる理由はわかるんですが、僕としては何かインパクトを残したかった。なので、逆立ちをしてくれた瞬間、僕は心の中でガッツポーズ! でも、それよりも何よりも目を見張ったのは『いいですよ』とやってしまう山田選手の対応力。そのときに、この選手はちょっと並じゃないぞ、と感じましたね」
スーパースターの凄さ、といって思い出すシーンでは、ほかにもバレンティンの「予告ホームラン」を挙げてくれた。それは、試合のイニング中、パトリックさんがファンにインタビューし、その様子が球場のビジョンに流れる『応援メッセージ』がキッカケだった。
「2013年、バレンティンがシーズン本塁打記録を目指してホームランを量産していたとき、あるお子さんからの『バレンティン選手、ホームランプリーズ!』というメッセージに、バレンティンは守備位置から『オッケーオッケー』とサインを送ったんです。するとその裏、バレンティンは本当にホームラン! メッセージをくれたその子はDJブースに走ってきて『打ってくれたー!』と大興奮。僕も『おーよかったな。君の言葉が通じたぜ!』とやり取りさせていただきました。これほど夢のあることってないですよね。その子は一生、バレンティンのこともホームランのことも忘れないはず。プロの凄さを改めて実感したプレーでした」
スワローズの「スーパースター」といえば、山田哲人やバレンティン以上に忘れてならないのが球団マスコット、つば九郎だ。つば九郎とパトリックさんといえば、主催試合の試合開始30分前、スターティングメンバー発表の際に、2人で漫談のような掛け合いをするのが恒例となっている。
さて、いよいよスワローズも本拠地開幕戦。パトリックさんにとってもシーズン開幕を迎える。シーズンに臨むにあたって、パトリックさんはホームのファンをいかに盛り上げるかを心がけつつ、大事にしたいのは「ビジターへの配慮」だと語る。
「対戦相手があってのプロ野球。勝つぞ、いや、負けてたまるかみたいなやり取りがある中で、たまたま、私は赤です、私は黄色です、というちょっとしたこだわりというか、違いが生まれるだけ。野球が好き、野球で楽しみたいという根っこの部分は誰もが同じはずなんです。だからこそ、球場に来ていただいたことに対する感謝の気持ちを伝えたいと思っています」