(二宮裕次/小学館:『週刊ヤングジャンプ』連載中、既刊3巻)
【あらすじ】少年野球チームのない町に育った石浜ブンゴはボールをブロック塀に投げ込む毎日。そんな「壁当て」に心血を注ぐブンゴのもとに、少年野球日本代表の野田ユキオが現れて……。シニアリーグを舞台にした王道野球マンガ。
【選定理由】※ツクイ1位、オグマ3位に選定
ツクイ 野球マンガで重視すべきことは「子どもたちが熱くなる」こと。その意味で、今一番、熱くなれるのが『BUNGO』です。『砂の栄冠』が終わり、『グラゼニ』が第2部になりと、変化球作品の時代が終わりつつある今、「少年がエースを目指す」というド直球を投げ込んでくる感じの作品です。特に、1巻の完成度、伏線というか「仕掛け」のレベルがものすごく高かった。
オグマ 連載開始は2014年。1巻出たのが2015年。2巻、3巻ときて、ここまでパワーダウンはしてないと思います。
ツクイ 少なくとも、2015年を象徴する作品であったのは間違いないです。ただ、連載が『週刊ヤングジャンプ』。つまり、今読んでいるのは大人たち。子どもたちにはまだ浸透してないかもしれない。だからこそ、ここから先の広がりも期待できます。
(なきぼくろ/講談社:『週刊モーニング』連載中、既刊3巻)
【あらすじ】野球名門校DL学園野球部1年の狩野笑太郎らは一つ屋根の下、寝食をともにする合宿生活。パイセンの命令は天の声。逆らうヤツはあの世行き。されど楽しい野球漬け。元PL球児が描く超リアル高校野球漫画。
【選定理由】※ツクイ3位、オグマ2位に選定
ツクイ PL学園野球部の存続問題が話題になる中、この作品が描かれている、という意味は大きい。寝た子を起こし兼ねない難しいテーマを世に投げ込むというのがまずすごかったし、そこで終わらず、描いている野球描写のレベルがとても高い。編集者となきぼくろ先生の熱量がうかがい知れます。
オグマ 野球マンガ家史上、球歴では最高レベルの人ですよね。これを超えるには、木田優夫(元巨人ほか)画伯の連載を持つしかない(笑)。気になるのは、今後、「強豪校野球部の文化」を描きたいのか? それともPL野球部出身ならではの緻密な野球描写を描いていくのか? 今は、どちらにいこうか迷っている印象も受けます。読み切り掲載時は前者で、それが面白かったんですが。
ツクイ 僕が読みたいのは後者ですね。ピッチャーに返球した後、ホームベースの前をならしてショートバウンドに備えるとか、キャッチャー出身者らしい細かすぎる描写が魅力です。
オグマ 確かに面白いんですけど、細かすぎて展開が遅すぎる気も。展開スピードにやきもきしてしまうのは、今後、劇中の「DL学園」が、現実に即して出場停止問題や野球部存続問題なども絡めるのかどうか、というのが気になるからでもあります。なきぼくろ先生自身、PL時代に出場停止を実体験しているわけですから。
ツクイ 過去にも、『やったろうじゃん!!』や『球道くん』など出場辞退を描いた作品はありましたけど、彼らの場合、問題を起こした選手がいなかったらそもそも甲子園にはいけない、というワンマンチーム。だからこそ、「あいつがやったのなら……」という展開だった。でも、PL学園の場合は全員が甲子園出場のための運命共同体。その状況において「出場停止」になったとしたら、高校生は何を思い、何をするのか? そのリアルは……知りたい。
オグマ 既に体罰問題をどうするのか、を匂わせる描写もあったりします。その部分は、なきぼくろ先生の解釈でいいからぜひ読んでみたいし、今後どうなっていくのか!? という部分で心配でありつつ、期待したい部分です。
(満田拓也/小学館:『週刊少年サンデー』連載中、既刊3巻
【あらすじ】元メジャーリーガー茂野吾郎の息子・大吾は、才能のなさと二世の重圧から野球をやめていた。そんな大吾の元へ、一人の転校生が現れる。吾郎の盟友にしてライバル、佐藤寿也の息子・光だ。佐藤親子との出会いによって、大吾の野球人生が大きく変わり始めていく。
【選定理由】※ツクイ4位、オグマ2位に選定
ツクイ 今、野球マンガは「セカンドシーズンブーム」。『MIX』があり、『ダイヤのA』が「act2」になり、『グラゼニ』が「東京ドーム編」になり。そこに来ての『MAJOR 2nd』。ネクストジェネレーションが登場してどうなるのかなと思いましたけど、よくも悪くも『MAJOR』になっている。
オグマ なってます。特に、試合が始まって大吾と光がバッテリーを組むことで、その印象は強くなりました。それと、吾郎たちを知らなくても十分楽しめる作品になってますよね。
ツクイ ネクストジェネレーションものって、楽しめるのは前の作品を見ていたおっさんだけじゃん! っていう作品が多い中で、ここまではとてもうまく展開できていると思います。しかも、僕らみたいにずっと読んできた人間も、「お、バッテリー入れ替えてきた! そうきたか」という楽しさがある。主人公・大吾の現代っ子な要素と、吾郎の息子である、という要素がどちらも上手に描けていて、すごく面白いんですよ。ちゃんと、今、描く意味がある。
オグマ “ファースト”を超える“セカンド”ってなかなかありませんが、この作品ではちょっと期待したいです。
■プロフィール
ツクイヨシヒサ/1975年生まれ。野球マンガ評論家。幅広い書籍、雑誌、webなどで活躍。著書に『あだち充は世阿弥である。──秘すれば花、『タッチ』世代の恋愛論』(飛鳥新社)、編著に『ラストイニング 勝利の21か条 ─彩珠学院 甲子園までの軌跡─』(小学館)など。ポッドキャスト「野球マンガ談義 BBCらぼ」(http://bbc-lab.seesaa.net/)好評配信中。
■ライター・プロフィール
オグマナオト/1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。「エキレビ!」、「AllAbout News Dig」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。『木田優夫のプロ野球選手迷鑑』(新紀元社)では構成を、『漫画・うんちくプロ野球』(メディアファクトリー新書)では監修とコラム執筆を担当している。近著に『福島のおきて』(泰文堂)。Twitterアカウントは@oguman1977(https://twitter.com/oguman1977)