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神がかり的な活躍でロッテの開幕ダッシュを演出! 11年目で開花した細谷圭のビフォー&アフター

★「群馬のゴジラ」という異名をとった高校時代

 4月2日のオリックス戦ではパ・リーグタイ記録となる3試合連続三塁打。4月7日のソフトバンク戦では5安打5打点の大活躍でチームの開幕ダッシュに大きく貢献。打率.432まで引き上げ、一時は首位打者に躍り出る活躍を見せたのは細谷圭(ロッテ)。

 これまでプロ入り10年間で規定打席の経験は無し。昨年は1軍で16試合の出場にとどまり、結果を残さないと、いつ戦力外通告を受けても不思議ではない立場だった。そんな男が11年目にチーム躍進の牽引役として注目されている。細谷圭とは、いかなる男だったのか?

 太田市商時代は「西の陽仲壽(福岡第一/現在は改名し陽岱鋼、現日本ハム)、東の細谷圭」と言われた強打者。当時から182センチ84キロという体格を誇り、高校通算46本塁打を放ち、「群馬のゴジラ」と恐れられた。狩野恵輔(阪神)が前橋工時代に記録した、1大会4本塁打の記録を塗り替え、不動の評価を得ることになる。そして、2005年秋の高校生ドラフトにてロッテから4巡目で指名され、彼のプロ野球人生は始まった。


 このとき、プロで花開くまで、これほどにも時間を要することになろうとは誰も思っていなかっただろう……。

★プロ入り後の将来像、苦労はどこまで予見できたか

 高校時代の細谷は長打を売りにする強打者、と評されるものの、狙い球を絞るより、どんな球も打ち返していく打撃スタイルに、対応力の高い中距離打者の傾向が強いのではないか、と私は見ていた。記事を書いている4月27日現在、23安打のうち、二塁打5本、三塁打3本、本塁打0本という成績であり、そこそこ上手く言い当てていたのではないかと我ながら驚く。

 その一方で、遊撃手としては将来的に不安なので三塁手がいいのではないか、プロで足を売りにするようなタイプではない、と評価しているが、それはプロ入り後の成績を見ると頼りない。というのも、昨季は2軍で2ケタ盗塁(14個、イースタン・リーグ5位)を記録し、今年は23試合に出場し、すでに盗塁は4つ決めている(1失敗)。このペースで走り続ければ、20盗塁前後はシーズン終了までに記録してもおかしくはない。そういった意味では、将来像を的確に言い当てていたかといえば、「No」だろう。

 さて、肝心なプロで活躍できるかということについては、「適応するにはかなり苦労しそうだ」と記していた。その理由は“始動が遅すぎる”から。

 “始動”とは、その選手の根本的なタイミングの取り方に関わってくるので、単純に早めに動き出せばOK、という単純なものではない。ある意味、自分が野球を始めて以来、培ってきたタイミングを1から作り直さないといけない危険性がある。非常にデリケートな部分だ。それを新たに作り変えて、自分のモノにするまでには、それなりの時間がかかる。だからこそ、高校からプロ入りするのではなく、大学などで確かな打撃の土台を構築してからでも遅くはないはず、と考えていた。


★一体何が変わり、活躍できたのか?

 そのような高校時代からプロ入りし、長い助走期間を経て、プチブレイクした現在、どこに成長の跡が見られるのだろうか。

 高校時代と現在の打撃フォームを見比べると、実はそれほど大きくは変わっていないことに驚く。そんな中、大きく変わっているところが始動のタイミングだった。高校時代は遅すぎるぐらいのタイミングで動き出していたのを、かなり早い段階から動き出すようになった。このことにより動作に余裕が生まれ、幅広くいろいろな球に対応できるだけの時間が生まれたのではないのだろうか。


 もう1つの変化は、長打へのこだわりを捨てたのではないか、という思考だ。それは、昨秋の映像と今年の映像を見比べるとわかる。昨秋よりも始動が少し早くなっており、ボールを広く呼びこむスタイルに変わっている。言い換えると、昨年は中距離打者の打撃をしていたが、今年はアベレージ打者の打撃をするようになった、ということだ。

 2軍と1軍の成績を比較することになってしまうが、昨季の細谷は2軍で78試合に出場し、12本塁打、62打点、14盗塁、打率.291。長打力と盗塁数が目立ち、勝負強い活躍をしていた(1軍ではわずか14打席に立ったのみで10打数3安打、打率.300)。

 しかし、彼は2軍で実績を積んできた長打を放つことよりも、確実性を重視するように意識を変えていったのではないかと考えられる(始動を早めれば早めるほど、確実性が増し、アベレージ打者への傾向が強くなりやすい)。

★安定した打撃でチームに貢献できる選手へ

 16日の日本ハム戦、第1打席でヒットを打ってから18打席連続ノーヒットで打率.271まで低下したことや、ナバーロの復帰もあって、4月23日以降、スタメンから外れている。この状態が続くと、活躍は一過性のものだったか? と議論の対象になるかもしれない。

 しかし、私は一過性の活躍とは思わない。いまは、相手に研究された、調子の波が落ちてきた、1軍の試合にスタメン出場を続ける経験が乏しかったことから疲れが出た、という様々なことが重なった、よくある不調期なのだろう。

 プロとして11年間で培った確かな経験、1軍で結果を残したという自信、クビになるかもというプレッシャーから解放されたことは精神的な余裕につながり、プラスに働くはずだ。シーズン当初のような爆発的な活躍はできなくても、しぶとく1軍の戦力として貢献し続けるのではないかと考えている。

 ただ、今後レギュラーに収まる選手かと言われると、それは微妙かもしれない。しかし、レギュラーの選手が出場できない時に穴を埋め、若手たちの壁となり、ポジション争いを演じる存在として、チームにとって貴重な存在になるはずだ。あるいは、この神がかり的な経験を元に、代打の切り札を任される可能性だってある。


★細谷圭が生き残り、培ってきた10年間の意味

 1軍で実績らしい実績が残せなかった男が、何故10年もの間、クビを宣告されることなく現役を続けて来られたのか? それは誰もが認めるだけのポテンシャル……2軍で2ケタ本塁打、2ケタ盗塁を記録する長打力と私が当初予想しえなかった走力でアピールできることが大きかった。その圧倒的な才能を「いつか1軍で開花させたい!」、そういった気持ちを首脳陣に抱かせたことが11年目を迎えられた、とも言える。

 高校時代の彼のレポートには、「プロ入りにはまだ早いかも」と評価をしていた一方で、このようなコメントも残している。

「野球の集中出来る環境で己を磨き続ければ、彼が本物ならば再び脚光を浴びることになるはずだ。私は、その日が来るまで待ちたい!」


 10年以上の月日をかけて、彼はそのことをプレーで実現してくれた。高校からのプロ入りが、実際のところ正しかったのかどうかは、意見が割れるところだろう。しかし、今、グラウンドで輝く彼の姿こそが、その答えだと私は思っている。
(成績は4月27日試合終了時のもの)


文=蔵建て男(くらたてお)
ネットスカウトの草分け的な存在で、人気ドラフトサイト「迷スカウト」の管理人。独自の視点から有望選手のレポートを発表し続けている。ハンドルネームはもう1つの趣味だった競馬で「蔵を建てたい」という願望を込めて名乗り始めた。Twitterアカウントは@kuratateo(https://twitter.com/kuratateo)

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