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安樂智大の異変はいつから起きていたのか?

 近年、夏の甲子園前になると、朝日放送系列のスカイA(CS放送)で各地方大会の決勝戦が全試合放送されていた。これは大きな楽しみだったというだけでなく、甲子園に出られなかった「噂の選手」をじっくり見ることが出来るという意味でも貴重な番組だった。ところがその番組が今年、突然なくなった。

 しばらくして思ったことが1つ。センバツの大会中に、各チームのサイン盗み(二塁走者がゼスチャーで打者に球種やコースを伝達)がにわかにネット裏で話題になったことがあった。僕はグラウンドの中で行われることは基本的にOKという立場なので、そんなに騒ぐなよ、と思いながら、騒動を眺めていたが、これも情報合戦の時代を象徴するワンシーンなのだろう。

 ここ最近になって関東方面の大会ではスタンドでのビデオ撮影が一切禁止になったという。要は、情報偏重の流れに、高野連が牽制を入れたということだが、その流れが今回のスカイAの放送中止にも関係しているのではないかと思った。

 今は、甲子園の対戦相手が決まれば各校ともあらゆる手段、ルートを使って相手校のデータ、映像を集める。その最も役立つものがスカイAの決勝戦の映像なのだ。そこで各選手の特徴や投手のクセ、場合によってバッテリーのサインなども「解読」できることがあるのだから。

 さらに今大会から、2回戦からも毎回、抽選が行われるようになった(結果的には日程の近いチーム同士が当たるよくわからない抽選ではあったが…)。これも事前に3回戦あたりまでの対戦相手が決まっていれば、情報収集の時間が多く、各チームともそこに躍起になることになる。それをやはり高野連が良しと思わなかったのではないかと思っている(もちろん表向きにそういうことは言わないが)。

 僕がこの話をしたある高校野球の監督が、知り合いだという朝日放送の関係者に確認をしたところ、地方大会の決勝戦の放送がなくなったのはあくまで「予算上の都合」ということだった。しかし、僕は、そうそう正直には話さないだろう…と、まだ自分の説を捨てきれずにいる。

 で、長々書いてここで何を一番言いたかったかというと…。
 1試合じっくり見れると思っていた安樂智大(済美)の愛媛大会決勝を見ることができず、それが極めて残念だということだ。すでに敗退してしまったが、甲子園では初戦の三重戦、2回戦の花巻東戦ともに7失点。三重戦の初回に155キロ、花巻東戦の延長10回の最後の1球でその試合最速の152キロも出した。

 しかし、まったく本来の投球ではなかった。唯一、センバツで見た好調時の球が来ていたのは花巻東戦の7回二死三塁で岸里亮佑をスライダーで三振に取った場面から9回裏を抑え切ったところまで(その間、ヒット1本)。ここだけは何故か、それまでは入らずに、ダランと曲がっていただけのスライダーがブレーキよく曲がり、ストレートも球速以上の威力で打者を差し込んでいた。


▲安樂智大(済美)

 初戦から、まず、スライダーがまったく使い物にならなかった。ひっかかって左打者に当てる場面もあったが、鋭角に鋭い曲がりを見せていたセンバツ時とは違い、横にメリハリなく流れるだけで制球もままならない。

 一方、真っ直ぐは真っ直ぐで、明らかに上体中心で力んで投げた時にそれなりの球速は出たが三重、花巻東の各打者にあれだけ簡単に合わされていたように、手元できていなかったのは明らか。俗に言う初速だけの棒球だったのだろう。スタンドから見ていてもヒジが下がっているように感じたが、スライダーの曲がり方と併せて考えても体全体が横振りになっていたことはあったはずだ。

 初戦の試合中、一瞬、ヒジでも痛いのではないかと思い、試合後、三重、四重に記者が安樂を囲んでいた中で、かなり思い切って質問をしてみた(笑)。すると「見ていてヒジがちょっと…」と言いかけると安樂は「ちょっと下がっていたかもしれませんが、そこを修正できないままいってしまいました。でも…」と答えを続けた。僕は「ヒジに違和感でも? 痛みでも?」と聞きたかったのだが、安樂は途中で質問を引き取り、ヒジの高さを口にした。仮に違和感があったとして、そこを突かれたくないがための反応とも思えたし、そうではなく、ヒジの低さ、横振りの体の使い方を感じていたからの早い返しとも言えた。そして、おそらくは後者。だから、そこも含め、愛媛大会の投球を見て確認したかった。崩れたのは愛媛大会後の話なのか、それとも実は愛媛大会中からだったのか、と。スカイA、何も今年から放送をやめなくても…(笑)。

 しかし、2試合とも、試合後の囲み取材で、これだけの「不調」にも関わらず、そういった調子で聞く記者が少なく驚いた。球速がそれなりに出ていたので、安樂の調子、状態より、まさか、普通に力は出したものの相手が上回って打たれた…、と思っているのでは…と思ったが、たぶんそう(笑)。ただ、それは安樂を甘く見過ぎというもの。花巻東戦の終盤8人に対した投球こそ本来の姿で、それ以外はまったく、好調時には程遠いものだった。

 すぐに秋の大会も始まる。この状態からまたどう修正してくるのか。今度はしっかり愛媛へ向かい、この目で確認をしてきたい。



プロフィール
谷上史朗(たにがみ・しろう)…1969年生まれ、大阪府出身。関西を拠点とするライター。田中将大(楽天)、T−岡田(オリックス)、中田翔(日本ハム)、前田健太(広島)など高校時代から(田中は中学時代から)その才能に惚れ込み、取材を重ねていた。

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