プロ野球選手なら試合に出てこそナンボ!
金本監督が現役時代、フルイニング出場にこだわった意味は単純明快である。毎試合出場するためには、成績もさることながら、ケガに強い強靭な肉体をつくるために、日々準備しなければならない。
鳥谷は入団当初から誰よりも早く球場入りし、全体練習の前に個人練習を行い、準備を怠らなかった。阪神では鳥谷こそ、金本監督の意思を継げるただひとりのプレーヤーだった。
現役時代、ともにプレーし、後輩のそんな姿を見ていた金本監督。今季、金本監督が鳥谷に期するものは大きかった。監督就任早々、開口一番、「鳥谷が変わらなければチームも変わらない」と発言したことからも明らかである。
そして開幕から不振を極めた鳥谷の復調を我慢強く待ち続けた。
打順も3番から1番、時には6番、そして2番、刺激を与えるために8番を打たせたこともあった。
逆にこの打順の入れ替えが、不調の原因をつくったと見る向きもある。しかし、「何とかしてやりたい!」という、金本監督の鳥谷に期する思いは十分に伝わってきていた。
7月24日の広島戦、スターティングメンバーから外れた鳥谷は、6回表に代打で登場。二塁へのタイムリー内野安打で追加点を挙げ、勝利に貢献する。
決していい当たりではなかったものの、ベンチで見ていた金本監督は手をたたきながら笑みを浮かべ、瞳は少し潤んでいるようにさえ見えた。
鳥谷の苦しみを誰よりも理解しているのが金本監督である。
金本監督自身も、連続フルイニング出場を継続していた晩年、右肩の故障で満足なプレーができず、周りから非難されることもあったからだ。限界を感じ、自ら当時の真弓明信監督にスタメンから外れることを嘆願したという。
体の限界以上に、メンタル面の限界を感じたからこその決断だったに違いない。
「さらし者にするわけにはいかない」
この言葉の意味するところは、自らの経験に照らし合わせ、メンタル面で滅入っていた鳥谷を思いやってのもの。
迷わず、金本監督は鳥谷を救うためにタオルを投げ入れた。
鳥谷がスタメンを外れてから、何かが吹っ切れたように勝利を重ねていく阪神。
鳥谷の代わりにショートのポジションについた、大和や北條史也がめざましい活躍を見せているわけではないが、ベンチの重い雰囲気が一気に明るくなったように思える。
甲子園球場で、代打「トリタニ」がコールされると、スタンドは異常なまでの盛り上がりを見せる。
入団以来、ポーカーフェースを貫いてきた鳥谷とファンの間には、大阪に馴染めないちょっとした溝があったように思う。しかし、今回の一件でその溝は埋まり、鳥谷にとって心の底からプロ野球選手でよかったと思える日が来たのではないか。
記録よりも大切なものを得た鳥谷。
超変革!
鳥谷が真に変われる日が来たのかもしれない。
文=まろ麻呂
企業コンサルタントに携わった経験を活かし、子供のころから愛してやまない野球を、鋭い視点と深い洞察力で見つめる。「野球をよりわかりやすく、より面白く観るには!」をモットーに、日々書き綴っている。