この時期になると、否が応でも名選手たちが現役を退くというニュースを耳にする。今季も既に谷繁元信、和田一浩、小笠原道大、朝倉健太の中日勢や斎藤隆(楽天)、谷佳知(オリックス)、?橋尚成(DeNA)といった錚々たる面々が引退を決意しており、涙を禁じ得ないシーズン終盤戦となりそうだ。
今回は過去の引退試合から印象に残る名場面をほんの一部ではあるが、紹介したい。
長年赤ヘル軍団を引っ張ってきた背番号7は真っすぐな眼差しで訴えた。『今日集まってる子供たち!野球はいいもんだぞ!野球は楽しいぞ!!』
2005年10月12日、広島のチームリーダー・野村謙二郎の17年にわたる現役生活が幕を閉じた。この日の引退試合では慣れ親しんだ1番・ショートで出場すると、途中で学生時代に守ったセンターに回り、打席でもきっちり安打をマーク。走攻守三拍子揃った選手らしく、最後まであらゆるプレーで楽しませた。
そして、上記の発言が飛び出した試合後のセレモニー。当時の子供たちは今、プロ野球選手に手が届く年齢に差し掛かっている。野村の言葉がきっかけで野球に目覚め、広島に入団する…というロマンを見たいのは筆者だけではないだろう。
『まだまだ投げたい!!』大粒の雨が降る杜の都で、無骨な鉄腕サウスポーは開口一番、素直な心境を吐露した。
2007年10月4日、楽天の草創期を支えた吉田豊彦が引退。南海・ダイエーで3度の2ケタ勝利を挙げ、阪神、大阪近鉄では貴重な中継ぎとして奮闘。楽天でも新規参入時からセットアッパーを担うなど、20年間で登板した試合は619を数えた。
それでも、あらゆる場面で投げ続けてきた男の引き際が訪れた。限界なのは分かってはいるけれど、まだやれる――。そんな想いがほとばしった名スピーチだった。
2012年10月5日、ナゴヤドームは笑いと涙、そして驚きに包まれた。超人的な身体能力で魅了した英智(中日)がこの日をもって、現役を引退したのだ。
試合後のスピーチでは掴みどころのない話しぶりで観衆を笑わせ、家族への感謝を述べると多くの人の涙を誘った。しかし、これで終わらないのが英智だ。
スピーチ終了後キャッチボールで肩をつくり、なんとホームベース後方から大遠投を敢行。球界屈指の強肩で鳴らした男らしいラストシーンを迎えた。1球目はポールに直撃するものの、2球目にドラゴンズファンが待ち受ける右翼席へ“ダイレクト送球”。
着弾を見届け、英智は右手を高々と突き上げた。
文=加賀一輝(かが・いっき)