球界マスコットたちの「これまで」と「今」を伝えてきた「12球団マスコット定点観測研究所」。今年最後を締めくくるにあたり、今回は3体のマスコットたちの言動から「マスコットのこれから」の話をしてみたい。
今年、一番嬉しい思いをし、そして一番悔しい思いをしたマスコットといえばヤクルトのつば九郎を置いて他にいないだろう。
ヤクルトの快進撃を陰日向で支え、悲願のビールかけを達成。リーグ優勝時には「“せかい”でいちばんしあわせな、ますこっとにしていただき、ありがとうございます。のこすは、にほんいちの、るーびーかけですね!」と万感こもったコメントを残した。ところが、日本シリーズではソフトバンクに惨敗し、「にほんいちの、るーびーかけ」の夢は泡と消えた。
そのうっぷんを晴らすべく、旅行ガイドブックの定番『るるぶ』を片手に優勝ハワイ旅行を楽しみにしていたつば九郎だったが、衣笠剛球団社長から「君の名前は搭乗者リストに載っていないぞ」と冷たいひと言。哀れつば九郎は常夏のハワイではなく、寒空の神宮外苑で冬を過ごしている。
そんなつば九郎のシーズンオフ恒例ネタといえば契約更改だ。振り返れば今年1月末、3000円減の年俸9000円でサインし、「はじめての、だうんていじ」と肩を落としたのが“アップ・ダウンつば九郎2015”の出発点だった。2年連続での最下位だからこそダウン提示を飲んだつば九郎。ならば優勝したこのオフ、大幅アップを狙うはず……。
そんな当たり前の予想を、つば九郎はしっかり斜め上に裏切ってくれた。ハワイ行きを諦める代わりに「ねんぽう やまだくんを ねらいます」と2億2000万円(推定)で契約更改した山田哲人と同額を要求。「NPBでちょうていも」と保留も辞さない構えを見せている。注目の契約更改は年内中。つば九郎は最後に笑うことはできるのか?
選手たちにとっては1年の疲れを癒す大切なオフシーズン。でも、マスコットたちにとって、シーズンオフこそ多忙を極める時期となる。イベント出演、企業とのコラボなど、さまざまな宣伝・広報活動に追われる中、早くも来季のための準備で忙しいのが中日のマスコット・ドアラだ。
実は来季、球団創設80周年を迎える中日。このメモリアルイヤーを盛り上げるべく、白羽の矢が立ったのがドアラだった。幼児、児童向けの企画として「ドアラ体操」を制作。DVD化して1000枚を幼稚園、保育園や小学校に配布する予定なのだ。
この「ドアラ体操」は幼児・児童の体力向上を目指したもの。俳優・松平健が歌う球団歌『昇竜―いざゆけドラゴンズ―』にあわせ、竜や動物などの動きをモチーフにした体操に仕上がっているという。
先日、DeNAが球団キャップを神奈川県内の子どもたち72万人に無料配布する計画を発表したように、若年層のファンをいかに開拓していくかは、どの球団においても至上命題。その意味において「ドアラ体操」とドアラに課せられる期待は大きい。「子供達のためなら雨だろうが強風だろうが会いに行くつもり」と筆談で語ったドアラ。ぜひとも、このプロジェクトを成功させて、ドアラここにアリ! を見せつけてほしい。
2015年、大きな節目を迎えたマスコットがいる。日本ハムのB・Bこと、ブリスキー・ザ・ベアーだ。B・Bが自身の背番号「212」の由来でもある全道212市町村(※2004年の日本ハム移転時の市町村数。現在は179市町村)をすべて訪問し、その魅力を自ら編集した映像で紹介する『212物語』が今年、遂に完結したのだ。
足掛け10年、総移動距離が5万キロを超えたこの旅の最後の目的地は札幌ドームのある「札幌市編」。9月23日のソフトバンク戦の試合前に放映され、栗山英樹監督からB・Bへの花束贈呈も行われた。
B・Bにとってライフワークともいえるこの大プロジェクトが終わったからこそ、来季に期待したいことがある。それは「モノ言うマスコットB・B」の復活だ。
球団公式サイトの「ファンゾーン」というコーナーに「B・B's コラム」なるページが存在する。このページではB・Bが誕生した2004年以降、全84回に渡ってマスコットのあるべき姿を考え、悩み、提言していくB・Bの熱い想いが綴られている。実際、コラム10回目の「マスコットに人権を」はYahoo!ニュースや新聞でも取りあげられ、物議も醸した。
マスコットといえば球場でのパフォーマンス……そんな固定観念に縛られないB・Bの姿にこそ、これからのマスコットに求められること、そして我々ファンが考えなければならないことがあると思うのだ。
B・Bが多忙であるため、そして一定の役割を果たしたことで、この「B・B's コラム」は連載開始から7年後の2011年3月で一旦休載。その後、一度だけ復活を果たしているが、その後はまた休載したままだ。『212物語』が終わった今、新たなる気持ちで、B・Bにしかできない、マスコットにしかできない情報発信をしてもらいたい。
考えてみれば、球場においてもっとも選手の近くにいて、ファンのそばにもいる存在、それが球団マスコットだ。ファンの気持ちも、選手の裏側もわかるマスコットだからこそのファンサービス、球界改善策がきっとあるはずなのだ。
「B・B's コラム」にはこんなメッセージがある。
《僕は力とアイデアの続く限り、その理想や可能性をずっと追い求めていきたい。そして、マスコット達とファンの皆さんとの絆がいつまでも続くよう……》
文=オグマナオト(おぐま・なおと)
1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。「エキレビ!」、「AllAbout News Dig」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。『木田優夫のプロ野球選手迷鑑』(新紀元社)では構成を、『漫画・うんちくプロ野球』(メディアファクトリー新書)では監修とコラム執筆を担当している。近著に『福島のおきて』(泰文堂)。Twitterアカウントは@oguman1977(https://twitter.com/oguman1977)