中学野球や高校野球を“生”で見ると常々気づかされることがある。投手の質や差はテレビ画面からも伝わるが、各校の力量が如実に現れるのが送球力だ。
中堅以上のチームになると試合前のノックで守備の巧拙を計るのは難しい。それでも全体的な送球の力強さでレベルがはっきりとしてくる。
そして、何よりも捕手の差が大きい。高校生にもなるとほとんどのチームで強肩選手が扇の要を守るが、強豪と呼ばれるチームでも「このキャッチャーだと盗塁フリーパスなのでは……?」と思うこともしばしば。「これは盗塁できないな」と思わせる捕手となると、全国を見渡しても稀有な存在である。
中村が甲子園で示したのは、その稀有なほどの強肩だった。
中村の二塁送球の到達タイム1.9秒。数字は高校生最上位レベルだ。しかし、プロ入りする捕手は全員その水準である。そこからのプラスアルファがプロで「強肩捕手」と呼ばれるか否かの分かれ目だ。
中村の送球にはその要素があった。低めから低めに矢を放つような送球。手首、ヒジをしならせて一瞬のうちに送球する。肩を大きく使った「強肩」ではなく、しなりを生かした「強肩」。肩というよりは「強送球」と言ったほうがしっくりくる。
甲子園歴代最多の6本塁打、17打点の打撃もさることながら、生観戦したファンやスカウトの脳裏に焼きついたのは、中村の身のこなしではないだろうか。
イニング間の二塁送球や奪三振後のボール回しの入り方、バント処理の速さなど、中村の素早いムーブメントは今まで高校生捕手に与えていた「強肩」「好捕手」というワードの安易さを否定するような迫力があった。
広陵の中井哲之監督が「広陵史上ナンバーワン捕手」と断言するのも決して言い過ぎではない。
心配なのは体力面だ。甲子園後のU-18ベースボールワールドカップでは打撃不振に喘いだが、さすがに疲労困憊だった。プロの試合数はこんなものじゃない。年間を通じて捕手をやるにはしっかりとした体力作り、脱力の会得が必要だろう。
また、足もすこぶる評判がいい。50メートル走6.0秒の俊足を備え、甲子園でも2盗塁を決めている。181センチのサイズ感も申し分ない。
将来像は今季でロッテを退任する伊東勤監督の現役時代。今でこそ、愛嬌のある体型になっているが、現役時代はスマートで1984年には20盗塁をマークするなど、「元祖・ハイブリッド型」の捕手だった。
その後も「走れる捕手」という前評判の選手はいたものの、ウワサの域を出ず、結局、プロ野球の世界ではいるのかいないのかよくわからないカテゴリーと化している。
ややもすれば、内野手や外野手に転向……。中村に抜群の身体能力があるからこそ、そんな心配をしてしまう。
21世紀の「ハイブリッド型捕手」のパイオニアになるだけの打力、走力、守備力、強肩を持ち合わせた逸材。「夢のある育成」を期待したい。
文=落合初春(おちあい・もとはる)