―スタメンでの出場もあれば、途中出場もある。内野での守備位置も様々。コンディションを整えるのが難しい立場で、本間さんは長い現役生活を続けましたが、そのなかで心掛けていたことは何ですか。
本間 自分に必要なのはスタメンの時も、ベンチスタートの時も、とくかく準備をしっかりとすることでした。10時に全員がグラウンドに集まってアップする場合は、9時にグラウンドに入ってストレッチや必要なアップをしていました。その理由はまず、ケガの防止です。ケガをしたら終わりですから。だから、試合後にもマッサージやストレッチをしたり。おかけで、それほど大きなケガをすることなく過ごせました。そういった準備については現役時代の後半には特に意識していましたね。
―途中出場で試合に入った途端に力を出せるのも、その準備がつながっているんでしょうか。
本間 その判断は難しいですね……。だから、自分の中での「よし、これで準備ができた!」という安心感を得るための準備だったと思います。「ああ、今日はあれを準備できていない……」という状態で試合に臨みたくなかったし、いい結果がでなかった時に準備不足を理由にはしたくなかったんです。もしミスをしても自分の責任だと納得できるように、しっかりとした準備と、そこから得る安心感が必要でした。
―しっかり準備をした上での失敗ならしょうがないと。
本間 そうですね。三振しようが、エラーをしようが準備した上での結果。納得できているからこそ「起こってしまったことはしょうがない。次はバットで取り返そう」と、すぐに切り替えることができます。いい結果を出した後もそうですが、野球には“切り替えること”が大事ですよね。毎日、その繰り返しでした。
―“準備”も“切り替え”もともに、“自分が納得できる”という気持ちの問題ですね。
本間 はい。バッティングにしても、スタメンの選手は4、5打席回ってくるところを、代打に立つ自分は1打席で結果を求められる厳しい役目でした。でも、そこで起用に応えないといけない。そう思って、強い気持ちでプレーしていました。
―1994年に入団した時は湯上谷(?志)さんがいて、1996年には井口(資仁)さんが入団。1999年には中日から鳥越(裕介)さんがやってきます。2003年には川崎(宗則)選手、2007年には本多(雄一)選手がレギュラーになりました。本間さんの現役時代は常にずば抜けた内野手が周囲にいましたが、その中で生き抜けた理由は何だと考えますか。
本間 体が強くて、痛みに強い。それだけです。ケガで休むことはほとんどありませんでしたし。僕の意識の中で、試合に出るにあたっての判断基準は「痛いか、痛くないか」ではなく、「やれるか、やれないか」。それだけでした。もちろん痛くて満足なプレーができない時は、チームに迷惑をかけてはいけないので「今日は無理です」と言わないといけない。でも、痛みを抱えた自分でもチームが必要に思ってくれるなら、痛くても「いきます」と言いました。強い体に生んでくれた両親に感謝ですね。それにしてもあの面々の中で、自分でもよくやったと思います。
―とはいえ、同じような状況で心が折れそうになる選手も多いと思います。
本間 野球は“代わりの選手”がいるスポーツなので、僕が「無理です」といえば、他の選手が出場するだけです。だったら、チャンスは渡さない方がいいですよね。だから「いけるか?」と聞かれれば「いけます」と答えます。それに、自分のような存在がいることでチームが成り立つと、ポジティブに考えるようにしていました。そう考えないと、続けられないですよね。
―セカンド、サード、ショートのポジションに就くことが多かった本間さんですが、現役時代の後半、2003年からはファーストでの出場が増えていきました。
本間 これも準備の話につながりますが、僕は練習の時に内野の全ポジションを守るんですよ。一度、まったく準備をしてなくてファーストを守って、ミスしたことがあったんです。その時にあったのは「ちょっと待って。ぜんぜん練習していないのに」という言い訳でした。反省しましたね。そこで、ミスをしたのは人のせいではなくて、ファーストにも就く可能性はなくはないと自分を納得させました。だったら、練習しておこう、準備をしておこうと決めたんです。
―考えられるケースはすべて考えて、準備をぬかりなくしておく。それが“どこでも守れる”、“代打で打つ”本間さんにつながっていったんですね。
本間 そうですね。例えば、外野の選手が足を痛めていて「出番があるかもな」と思ったら、監督やコーチに言われる前に練習で外野の捕球練習もしていました。そうするうちに、段々と試合前のチームの状況も、試合中の流れもよく見えるようになりました。その上で「あそこで出番が回ってくるかな」と予測して、それが監督やコーチの考えとバチンとはまった時は、いい結果が出やすいんですよね。「ほら、きた!」という感覚です。だって、その出番に向けて準備は整っていますから。
(※文中一部敬称略、第2回に続く)
協力:日本プロ野球OBクラブ