3年ぶりの夏の甲子園出場をつかんだ広陵を推す。直近2回の甲子園はいずれも初戦での敗退だったが、2014年夏は準優勝の三重に延長11回の4対5、2013年春もこれまた準優勝の済美に延長13回の3対4とぎりぎりの勝負を演じている。広島新庄の台頭もあり「久しぶりの甲子園」感はあるが、「強い広陵」の地力は変わっていない。
チームの軸はエースの平元銀次郎と捕手・中村奨成のドラフト候補バッテリー。平元は広島大会で5試合に先発し、防御率は1.55。中村は準決勝、決勝で本塁打を放ち、勝負強さを見せた。甲子園を勝ち上がるにあたって「ドラフト候補」バッテリーを擁するアドバンテージは大きい。また、守備は広島大会6試合で3失策と堅い。強豪相手にも大崩れすることはないだろう。
もう1つ注目したいのは中井哲之監督の存在。センバツでは2度の優勝も夏の栄冠はつかめていない。実力分析からは離れる話だが、高校野球には「人生ドラマ」がつきもの。あらかじめ決められた筋書きに突き動かされたような優勝劇が何度もあった。
そんな物語的な見立てがあるとするならば、昭和的な高校野球が終わろうとしているなか、悲願の夏制覇を達成する「最後の昭和の名将」のイスは中井監督のものかもしれない。だとすると、最大のチャンスは今夏だと見る(今夏を最後に勇退する日本文理・大井道夫監督もドラマたっぷりだが…)
清宮幸太郎がいる早稲田実が決勝の相手、という「壮絶なアウェー」に動じなかった東海大菅生の勢いと成長力を買う。日大三、早稲田実の強力打線をしっかりと抑えた松本健吾を盛り立てて、戦いたい。低めに集めた縦横のスライダー、スプリット、フォークで冷静に早稲田実を封じた松本は、投球術のコツをつかんだように見える。甲子園でまだまだ伸びそうだ。
東海大菅生は17年ぶり3回目の出場。出場回数が少ないなかで優勝を目指すとなると、どうしても「甲子園慣れ」した強豪校が壁になる。甲子園のムードと常連強豪校のオーラに飲まれて力を発揮できないチームは多いが、早稲田実戦のアウェー感は並大抵のものではなかった。この「異様な空気」を乗り切った経験は大きい。一気に夏の頂点に駆け登れるか。
明徳義塾は昨夏の甲子園でベスト4。往年の「怖さのある強さ」が蘇りつつある。甲子園50勝まであと2勝に迫った馬淵史郎監督も心に期すものがあるだろう。
馬淵監督は言わずと知れた策士。タレント揃いの大阪桐蔭、横浜を相手にどんな采配を見せるのか。揺さぶりをかける打者の動きや機動力を絡めた攻撃。配球、ポジショニングを含めた守備。刻一刻と変わる試合の流れを読みながらの仕掛けは見どころたっぷりだ。
対する大阪桐蔭・西谷浩一監督も横浜・平田徹監督も黙ってはいない。監督同士の駆け引きも楽しめる一戦だ。
「可能性枠」として直江大輔(松商学園)に注目したい。2年の直江は3年の青柳真珠とWエースを務め、長野大会を勝ち上がった。センスのいい右腕で、現時点では線の細さが気になるが、数年後に大成しそうなムードが漂う。一方で、もしかすると昨夏の作新学院・今井達也(現西武)のように、「甲子園に来てからの大化け」もありそう。初戦でコツをつかみ覚醒したら、手がつけられない快投を見せる可能性あり。
ほかには「変則投手枠」として右サイドハンドの橋爪開斗(明豊)を挙げたい。遠心力を生かした腕の振りとインステップ気味の踏み出しから、スーッと浮き上がる球を投げ込む。大分大会決勝では打たせて取る投球で大分商を3安打完封。いかにも「打てそうで打てない」という投手なのだが、甲子園でも持ち味が通用するか。
文=山本貴政(やまもと・たかまさ)