個性あふれるドラフト候補選手を徹底解剖する「2015ドラフト候補怪物図鑑」。
新進気鋭の女性ライター・則松(のりまつ)葉子さんが、「炎のストップウオッチャー」を連載中のキビタキビオ氏と、『野球太郎』持木編集長を質問攻めにします。
夏の甲子園大会では1試合16奪三振も記録した成田翔投手(秋田商)。女性ライターらしく? 整った顔立ちについて話がスタートしました。
ノリマツ(以下ノリ):高校野球も変わったな、と思うことのひとつに、イケメン選手が増えたというのがあります。この成田翔選手は、男性目線でのイケメン評が多い印象がありました。
キビタ:ちょっと昭和な雰囲気で、ハンサムな感じですよね。そして168cmと小柄だということも話題になりましたが、彼が投げているところを見るとそんなに小さく見えないんです。
その理由は、彼のピッチングにあります。頭のあたりのかなり高いところから投げているため、背の高い投手とボールを離す位置があまり変わりません。
持木:バッターにとっては、175cmくらいのピッチャーと同じような感覚で球がくるんじゃないかな。
ノリ:そういう意味では、身長の低さをあまりデメリットとしない投球ができるってことなんですね。
ノリ:成田投手のような高い位置からの投球は、どんな特徴が出るのですか?
キビタ:ボールの回転は普通に投げれば逆スピンをするのですが、高いところから投げることにより、スピンの角度が横の回転ではなく縦にかかります。上向きのスピンなのでボールがなかなか落下せず、バッターにとってはボールが浮き上がるように感じるとも。
ノリ:成田投手の球は、スピードガンの数字よりももっと速く見えるのは、そのためですか?
キビタ:そうですね。東海大相模の小笠原(慎之介)投手の150キロに比べたら実際出ているスピードはもう少し遅めなのに、速く感じるのはそのせいです。
持木:いかに落ちづらい球かというところが、体感としてのスピードを上げているのかもしれませんね。
持木:ストレートも良いですが、変化球もキレのある球を投げるんですよ。
キビタ:そう、彼のカーブは縦に落ちるんです。先ほど話した上向きスピンのストレートと、テニスのドライブのような下向きの回転を与えるカーブ、そのふたつの上下の揺さぶりでバッターを打ち取るタイプ。ホームベースの内角と外角を投げ分けて左右をついてくるタイプの投手が多いなか、成田投手は高めのストレートと低めのカーブで目の錯覚を狙えるので、バッターはボールの下部をたたいてしまい内野フライになることが多いんです。
ノリ:三振がとれるという点も、その高低差のギャップが大きいのですか?
キビタ:はい。目は、横の動きは簡単にできても、上下を見るのって実はかなり難しい。特に顔を動かさず固定しているとね。だから、ちょっとした上下の差も、極端な差に感じさせる効果が絶大なんです。
ノリ:それを使いこなすコントロールもあるわけですね。ここまで伺っていると、成田投手の存在は希少価値が高そうです。
持木:報道では、同じ秋田商出身ということもあり、ヤクルトの小柄な左腕の石川雅規投手二世と言われていますが、マニアの間では元ソフトバンクで現在メジャーリーグにいる和田毅投手に似ているとも。
キビタ:細身で球も140キロいくかどうかのスピードなのに、なぜか三振をとる投手ですね。成田投手もうまくいけばそんな投手に成長するかもしれません。
ノリ:当初は社会人に進むかと噂されていた成田選手ですが、U−18で自信がついたということでしょうか? プロ志望届を提出しましたね。
持木:プロ志望選手たちと一緒に日本代表で戦った経験も大きかったと思いますが、これは成田選手に限らずの話なんですけれど、今どきは選手同士でSNSなどで直接繋がって情報交換もしていますからね。やはり同世代の影響も多いし、触発されたん部分もあるんじゃないかな。
キビタ:最近そういう話をよく聞きます(笑)。彼は3〜5位指名くらいで来そうかな。左の投手に限ってはスピードもそこまで重視されませんし、身長160cm台でも左ならプロで活躍しています。球団によっては成田投手の指名も、大いに検討されていると思いますね。
ストレートと変化球ともに、精度の高さを併せ持つ成田翔選手。三振を奪うその鋭い投球は、高低差のある球を投げ分ける巧みなコントロール力の証。小柄ながら、希少価値の高い左腕として才能をうかがわせる選手だ。
取材・文=則松葉子(のりまつ・ようこ)
ラジオ局勤務後フリーのライターとして美容やカルチャー、広告コピーを中心に執筆中。野球に関してはほぼ新人。春夏の甲子園と奇数月の大相撲を楽しみに生きている。スタイルにこだわらない柔軟なライティングがモットー。
イラスト=横山英史(よこやま・ひでし)
野球を題材にしたイラストを得意とするイラストレーター。スポーツ雑誌のイラストや、メジャーリーグ カンザスシティ・ロイヤルズのクラブハウスに飾られているチーム歴代プレーヤーを描いた作品なども制作。
出演者=キビタキビオ(きびた・きびお)
野球のプレーをストップウオッチで測る記事を連載中。NHKBS1で放送されているプロ野球ドキュメント番組「球辞苑」などに出演するなど、活躍の幅を広げている。
出演者=持木秀仁(もちき・ひでと)
ご存じ、本誌『野球太郎』編集長。今夏は甲子園大会の盛り上がりと相まって、週刊誌やテレビなどの取材を数多く受けた。