「ダメだったら一緒にクビになる覚悟」
渉外担当も兼務する森繁和ヘッドコーチの言葉がすべてを物語っていた。今回は例年の補強とはひと味違う、“本気”の補強であると――。
ビシエドはキューバで生まれ育ち、19歳の時に亡命。早くから打撃の才能は際立ち、フューチャーズゲーム(マイナーリーグのオールスターゲーム)のメンバーに選出された経験を持つ。
21歳で迎えた2010年、ホワイトソックスの一員としてメジャーデビュー。2012年には正左翼手として、25本塁打78打点の成績を残した。以後も14本、21本と3年続けて2ケタアーチをクリア。パワーを武器にするのは間違いなく、日本でも豪快な一撃を何度もお目にかかれるだろう。
ただ、今季はマイナー契約からの解雇を3度繰り返しているのが懸念材料。最後に所属したホワイトソックス傘下の3Aでは36試合で7本塁打、打率.341と打ちまくったが、メジャー昇格はならず。ほぼ一塁専任となっていたこと(一塁手はチームの主砲・アブレイユが守る)、そして早打ちのフリースインガーであることが、チーム事情に合わなかったと推察される。
近年の中日で大物打ちの助っ人といえば、タイロン・ウッズやトニ・ブランコ(現オリックス)が挙げられる。ともに不動の4番打者として本塁打王を獲得した、パワー自慢の男たちだ。この「不動の4番打者」がビシエドの活躍を占うキーワードになる。
ウッズは2005年に横浜から加入すると、翌2006年には47本塁打144打点の猛打で二冠王に輝いた。2008年に退団するまでの4年間、どの年においても4番での出場がシーズン全試合の8割を超え、まさに主砲の名にふさわしい存在感を見せつけた。一方のブランコも、来日初年度の2009年に全試合4番として出場。こちらも39本塁打110打点の好成績で、二冠王を獲得した。
ビシエドは、ポテンシャルにおいてこの2人に勝るとも及ばない。ならば、打棒を爆発させるように仕向けるのみ。大枚をはたいて連れてきた手前、ある程度の我慢も覚悟の上だ。2016年型中日打線は、キューバが生んだ大砲の出来にかかっている。
文=加賀一輝(かが・いっき)