熱戦が続く夏の甲子園。大会第4日の第1試合は、「機動破壊」をスローガンに上位進出を狙う健大高崎(群馬)が登場する。
「走って壊す野球」を標榜し、積極的な走塁を武器にする健大高崎。常に「走る」というプレッシャーを意識させることで、心理的に優位に立つ戦術は、近年の高校野球界に大きな衝撃を与えている。
昨夏の甲子園では、4試合で26盗塁をマークして8強入りした健大高崎。大会記録に、あと3に迫る盗塁数で、特に初戦の利府(宮城)戦では、1試合11盗塁を成功させて10−0で圧勝。大量リードした場面で盗塁を仕掛ける戦術に、一部では「やり過ぎでは」と批判の声も上がった。
しかし、その後も手を(足を?)緩めず、勝ち上がった。その後も、昨秋の関東大会でベスト4に進出。3年ぶり2回目の出場となった今年のセンバツでは、近畿大会優勝校の天理を破るなど、ベスト8入り。「機動破壊」の威力とインパクト、旬の高校の1つとして、その名を全国に広めていっている。
今夏の群馬大会は、6試合を戦って20盗塁。これは昨夏の35盗塁よりも減少した。しかし、単に盗塁数を重ねるだけでは「機動破壊」とはいえない。相手バッテリーへ常に「走る」という意識を与えることで、神経を磨り減らし、変化球を少なくさせ、配球を単調にさせる。同時に相手守備陣にも足の速さを印象づけることでプレッシャーを与え、時にはエラーを誘発させる。
今春のセンバツでは、健大高崎の走者がリードを大きくとったり、戻ったり、相手投手にプレッシャーを与え続けた。これで集中力を削ぎ、余計な四球を与えてしまう場面もあった。「機動破壊」とは、相手チームを精神的に破壊していく野球でもあるのだ。
「走って(相手を)壊す野球」を生み出したのが、青柳博文監督だ。前橋商から東北福祉大に進み、現役時代は右投げ左打ちの強打者として活躍。監督就任当初は、「打ち勝つ野球」を標榜していた。
しかし、高校野球は一発勝負のトーナメント戦。どんな最強打線を作り上げても、“打線は水物”という言葉もあるように、相手投手の調子が良ければ、その打撃力は封じられる可能性は高い。
そこで青柳監督は「打てなくても、勝てることを教える」をモットーにチームを再構築。部員に「走れない選手は使わない」と宣言して、チーム全体の走力をアップ。さらに相手投手のクセを盗む重要性を説き、クセを盗むために多くの牽制球を投げさせるよう、積極的なリードをとるよう指導。広い意味での「走力」への意識は高まり、単に盗塁数を増やすだけでなく、攻撃中は常に相手へプレッシャーを掛けるチーム作りに成功した。