当日、筆者はかねてより注目選手に挙げてきた東晃平投手(神戸弘陵高)の会見場に向かった。
178センチ71キロで細身ながらしなやかな柔軟性で最速145キロを叩き出す右腕だ。145キロを出す高校生は今や珍しくないが、東のストレートはキレが違う。カメラの連写が追いつかないほどの腕の振り、力感のないフォーム……、見る者すべてを唸らせる天性のものがあった。
普通に考えれば確実にドラフトにかかる存在。だが、ひとつだけ不安があった。今年の春に腰を骨折し、夏は完全な状態ではなかったのだ。
それでも実戦再開から3週間後の兵庫大会3回戦、9回2失点完投で昨夏の王者・市尼崎を下し、中1日おいた関西学院戦では6回途中3失点で敗れてしまったが、最速143キロを3度マークした。
ポテンシャルの高さを示すことができた夏だが、ケガ明けの体はやはり重さが抜けていないようにも見えた。
2、3月の投球をプロは評価するのか――。
焦点はそこだった。春先の段階では夏に上位に躍り出てもおかしくない存在。各球団のスカウトも連日グラウンドを訪れており、「いいとき」のピッチングは見ていたはず。
6月の紅白戦で某球団のスカウトが、岡本博公監督に伝えた東への伝言を思い出した。
「いいときも悪いときもあるけど、焦らずにしっかりやるよう伝えてください。次は絶対に上司を連れてきますから」
ドラフト当日、神戸弘陵高に設けられた会見場は会議室。午後5時の段階で室内には筆者を含め、新聞、テレビなど7名の取材陣が控えていた。
主役の東は、隣の部屋にいた。
「夜は寝られたんですが、授業が終わった頃からすごく緊張してきました……」
制服のせいか、少し伸びた髪のせいか、緊張のせいか、夏より少し体がスッキリしたように見えた。
「体重はあまり変わっていません。夏が終わってから走り込めるようになったので」
控え室の机の上には9球団の帽子が並んでいた。岡本監督が調査書の状況などから用意したものだ。そんななか、東は一枚の紙とにらめっこしていた。
「会見で話すことを監督と一緒にまとめたんですが、うまく言えるか……。3日前ぐらいから練習しているんですけど不安です……。みんなうまく言えるんですか? どんなこと聞かれるんですか?」
「指名されたチームのあこがれの選手はあるかもしれんなあ……」とアドバイスし、各球団の帽子と付き合わせて少しだけテストさせてもらった。やや答えに悩む球団もあったが、意外にもスラスラと出てくる。
あとは清宮の印象などありそうな質問を投げかけてみたが、パーフェクトな回答が返ってきた。準備はバッチリ。あとは指名を待つのみだ。
周知の通り、東はオリックスに育成2位で指名されるのだが、実は現地でしか知り得ない衝撃の展開があった!
≪後編へ続く≫