3月11日、センバツの中止が決定した。球児に対する救済措置などはこれから議論を進めていくことになるが、センバツの中止は覆らない。とはいえ、いつまでも下を向いているわけではいかない。多くの高校では夏の甲子園出場へ向けて、新たなスタートを切っている。
本稿ではセンバツにおける名勝負を振り返ってみたい。今回は過去10年に絞っている。
■2017年2回戦:健大高崎対福井工大福井
2017年のセンバツでは歴史的なことが起こった。2回戦で福大大濠対滋賀学園、福井工大福井対健大高崎の2試合が、連続して延長15回引き分け再試合となったのである。
なかでも福井工大福井と健大高崎の試合で印象に残るプレーがあった。この試合は6対6で9回の攻防に突入。先攻の福井工大福井が1点を勝ち越した。あと3人。しかし、健大高崎はまったく諦めていなかった。相手の失策と死球、そして4番の犠打で2死二、三塁のチャンスをつくる。
一打逆転のチャンスでベンチは動いた。二塁走者が大きくリードを取り、投手の牽制を誘うとその隙に三塁走者がホームスチール。本塁返球は間に合わず土壇場で追いついたのである。
負けたら終わりの一発勝負。健大高崎は一気に逆転を狙うのではなく、まずは同点を狙ってトリックプレーを繰り出したのだ。
万が一、アウトになったら試合終了。練習試合ではなく甲子園という大舞台である。打者にかける選択肢もあるなかで、ダブルスチールを選択した采配には驚かされた。この采配が物を言い、結局この試合は延長15回引き分け。
後日行われた再試合では健大高崎が勝利し、準々決勝へと駒を進めている。まさに決死のプレーがその先の勝利を呼び込んだのだ。
ちなみに9回に犠打を決めたのが、前の試合で満塁本塁打を放っていた4番の山下航汰(現巨人)である。骨折の影響で試合には出場していないが、湯浅大(現巨人)もベンチに入っていた。
■2011年1回戦:日大三対明徳義塾
3月11日に発生した東日本大震災の影響で開催が危ぶまれていた2011年春の甲子園。1回戦で屈指の好カードといえる日大三対明徳義塾の試合が実現した。
6回表終了時点で明徳義塾が4対1と3点のリード。しかし、現代の高校野球でセーフティーリードはあってないようなもの。6回裏に日大三は2点を返すと、7回に1点を加え、試合は振り出しに。明徳義塾は8回に1点を勝ち越すも、その裏に日大三が2点を奪い逆転に成功。そのまま逃げ切ったのである。
明徳義塾の馬淵史郎監督は春夏21度目の甲子園で初の初戦敗退となった。
一方、名将に土をつけたこの試合で、日大三はリードを許しても、慌てることなく勝利をモノにしている。日大三は高山俊(現阪神)、横尾俊建(現日本ハム)と後のプロ野球選手が2人出場していた。しかし決勝打を放ったのは2人ではない。
この試合で前歯を2本折った捕手の鈴木貴弘だった。まさに執念が生んだ逆転勝利である。鈴木は立教大、JR東日本と進み野球を続けていたが、今年からマネージャーに転身している。
■2009年決勝:花巻東対清峰
2009年のセンバツは花巻東の菊池雄星(現マリナーズ)が、圧倒的な存在だった。1回戦、2回戦と連続完封勝利。2回戦の明豊戦では今宮健太(現ソフトバンク)をねじ伏せた。その後も勝ち上がり、準決勝までの4試合で31回を投げわずか2失点と噂に違わぬ快投を見せていた。
迎えた決勝の相手は今村猛(現広島)を擁する清峰だった。今村も35回を投げわずか1失点と、菊池以上の内容で当日を迎えている。
甲子園においては「春は投手力」とよくいわれるが、それにしても両投手はできすぎである。
花巻東は初の決勝進出。清峰は3年ぶりの決勝の舞台だが、前回は横浜に0対21の大敗を喫しており、ともに初優勝をかけての戦いだった。
両チームとも毎回のように走者を出すものの、決定打が出ず緊迫した試合展開が続く。均衡を破ったのは清峰だった。7回2死から四球で出塁。次打者が適時二塁打を放ち、一塁走者が長駆ホームイン。これが決勝点となったのである。
この試合で菊池は連打を浴びておらず、四球のあとに安打を許したのも、この1本だけ。一方の今村は8回に三連打、9回にも連打を浴びたが、要所を締めている。まさに最後の踏ん張りどころを抑えた今村の勝利だったのである。
この試合には続きがある。同年夏の甲子園。花巻東は連続出場を果たしたが、清峰は長崎大会で長崎日大に敗れ涙を飲んだ。しかし、運命なのか。花巻東と長崎日大は初戦で顔を合わせることになる。
ここで花巻東は長崎日大に8対5で勝利し、間接的にではあるが春の借りを返したのである。ちなみに長崎日大のエースは大瀬良大地(現広島)だった。
熱戦から11年が経ち、菊池は海を渡り、今村と大瀬良は広島でチームメートとしてプレーしている。甲子園からプロ野球、そしてMLBへとドラマは続く。
文=勝田聡(かつた・さとし)