2015年、就任1年目の緒方監督は大いなる非難を浴びた。その1つが無謀と評された機動力野球だ。エンドラン、盗塁をとにかく多用し、かなりのチャンスの芽を潰した。
そもそも機動力野球信仰自体が新人監督にありがちな傾向であり、その大半が失敗に終わる。しかし、昨季の広島の評はどうだっただろうか。
「広島は走塁でプレッシャーをかけ、先手を取り続けた」
まさに表裏一体。一見すれば結果論だが、多くの修正を図るなかで緒方監督は機動力野球の姿勢は変えなかった。
それは単なる気まぐれではないだろう。広島には脈々と機動力野球の血が流れている。
名将・古葉竹識監督が1970年代後半から1980年代にかけて築いた黄金期には、広島の選手はとにかく走りまくった。広島が優勝するときは必ずといっていいほど機動力野球がハマったときである。
1年目の緒方監督はその血脈のなかで模索していた。野村謙二郎前監督もかなり走りまくる采配を見せていたが、足りないピースがあった。1番打者である。
高橋慶彦、正田耕三、野村謙二郎、そして緒方孝市。強い広島には常に走りまくるトップバッターが存在した。広島の熱き血を煮えたぎらせるためのエンジンを緒方監督は求めていたのだ。
その象徴が野間峻祥だ。2015年、緒方監督はルーキーの野間を重用した。あまりの寵愛ぶりにネット上では「スキあらば野間」のフレーズが生まれたが、緒方監督が野間を愛すぎているわけではない。それは1番打者育成計画の一環だったのだろう。
そして、最初の1年間で最適解を見つけた。田中広輔である。2016年、野間の出番は127試合から21試合に激減したが、もちろん「スキあらば野間」と言われたからではない。1番打者が田中で固まったことで、野間をじっくり育成に切り替える決断ができたのだ。
今では野間もレフトの守備固めとして戦術上欠かせない存在になっている。赤松真人の胃ガンによる離脱は想定外だっただろうが、赤松が34歳、同タイプの天谷宗一郎も33歳で世代交代を見据えなければならない時期。ここは「結果的」になるが、野間がうまく立ち回りそうだ。
緒方監督の采配で最も秀でた部分はターンオーバーだろう。新井貴浩、エルドレッド、松山竜平を巧みに使い分けている。新井はもちろん、エルドレッドもベテランの域だが、適度な休養によってコンディションをキープしている。
昨季の日本ハムとの日本シリーズでもその手腕は光った。第1戦で緒方監督は速球に強い松山竜平を4番に起用。目論見通り、松山は日本ハムのエース・大谷翔平からホームランを放ち、広島は初戦をモノにした。
今季はターンオーバーを活用しての世代交代も実現している。昨年から引き続き、4番・新井で開幕を迎えたが、新井の休養日に4番・鈴木誠也をテスト起用。4番の重圧を経験させ、そのプレッシャーに負けないメンタルを確認した上で、4月25日からは本格的に4番として継続起用している。
菊池涼介が不振に陥っていた時期には思い切って西川龍馬を5番・二塁で起用した。ペーニャ、バティスタと次々と助っ人を起用し、競争とフレッシュさを生み出している。常に鮮度ナンバーワン。選手が多くても決して持て余さない。それが好成績をキープしている秘密だろう。
次なる進化の期待は「短期決戦での戦い方」に注がれる。昨季は日本シリーズで後手を踏んだが、同じ過ちは犯さない。赤き血脈に柔軟性を取り入れた新生・緒方監督は突き進む。
文=落合初春(おちあい・もとはる)