8月28日に幕を開けたU-18野球ワールドカップ。今年は初の日本開催ということもあり、例年よりも注目度が高い。
1番先頭打者のオコエ瑠偉(関東一)、1年生4番・清宮幸太郎など、この夏を沸かせた甲子園戦士たちがずらり。世界の高校球児たちと熱戦を繰り広げている。
WBCやアジアシリーズなどでたびたび日本を苦しめ、「永遠のライバル」といわれる韓国。U-18の年代でもその強さは光っており、昨年、タイ・バンコクで開催された18Uアジア選手権大会でも、決勝戦で日本を下して、アジア王者の座に就いている。
プロも世界でも李大浩(ソフトバンク)、呉昇桓(阪神)、秋信守(レンジャース)など、現在も多くのパワフルな選手を輩出している韓国だが、実は高校野球の参加校は60〜70校しかない。
わずかな校数にも関わらず、日本と同等またはそれ以上に戦えるのは、韓国独特のエリートシステムに理由がある。
韓国は強烈な学歴社会。高校生ともなれば、学校に2つ弁当を持参して朝から晩まで勉強に励むこともしばしばあることに対し、韓国高校球児は日本の野球強豪校以上に「野球専念」の方針だ。
日本のように“部活動”という位置づけではなく、“エリートスポーツ教育”の路線となっている。
韓国高校球児は、主に財閥が母体となっている学校で、朝から晩まで野球漬け。授業もほぼ免除されており、「授業もちゃんと受ける高校球児」がいればニューストピックスになるほどだという。
しかし、韓国社会も「文武両道」が理想であることは変わりない。以前は授業があろうがなかろうが時期を構わず、矢を継ぐように9つの全国大会が開かれていたが、近年になって、大会の統廃合や授業がない週末のリーグ戦への移行が進んでおり、文武両道を目指す取り組みが進められている。
だが、もともと韓国の大学には「4強制度」というものがあった。これは全国大会で4強以上に入った選手はスポーツ特待生として入学できるというものであり、現在もそうした条件は健在。強烈な学歴社会においては、まさに人生を賭けた戦いを高校球児は強いられている。
WBCや国際大会など、韓国人選手の“勝負強さ”はナショナリズム面が強調されがちだが、高校時代からそういった真剣勝負に臨んでいることも理由のひとつに挙げられるだろう。
アメリカの高校スポーツはシーズン制が基本ということはよく知られている。新学年となる秋はアメフト、サッカーなど。冬はバスケットやアイスホッケー、春から夏にかけては野球やテニスと、各々が希望したアクティビティーに参加する仕組みだ。
近年は通年で野球に取り組んだりするケースもあるというが、伝統的な基本はここ。それぞれ、勝利を目指すチームとは別に競技そのものを楽しむための「レクリエーションチーム」が設置されることもあり、スポーツとさまざまな関わり方ができる。まさに自由を重んじるアメリカらしいシステムだ。
高校単位では大きな大会も州大会が頂点であることがほとんどだが、6月に学年が終わるとサマーリーグがはじまる。こちらは選抜チームがしのぎを削るが、それでも注目度は低く、球場には親や家族が見に来る程度だそうだ。
アメリカの学生スポーツの本領は大学スポーツ。大盛り上がりの大学スポーツ界への育成段階という面も大きいのだ。
戦前の日本統治下では朝鮮、満州と同じく台湾代表として甲子園に出場していた台湾(チャイニーズ・タイペイ)の高校野球は、システム的には日本に近い。
台湾では日本ほどは盛んではないが、部活が学生文化としてあり、野球では王貞治杯、黒豹旗、玉山杯と三大全国大会が行われている。今回、U-18の代表チームも玉山杯の優勝校が来日し、台湾代表として戦っている。
サッカー王国・ブラジルの野球は、日系移民社会を中心に展開されており、ヤクルトの現地会社などがアカデミーを設立。アカデミーで腕を磨いた中学生が、高校で日本に留学し、甲子園を目指すという流れもある。
今回の大会には出場していないが、全貌が明らかになっていないインドの野球も面白い。出てくる選手は荒削りだがみんなパワフル。手投げで130キロを超える球を投げたり、クリケットの競技性(打者の後ろにある棒が倒されるとアウト)からどんな球も当ててきたりと、ポテンシャルは十分すぎる。
今夏、甲子園準優勝投手となった佐藤世那(仙台育英)も、中学時代にKボール日本代表としてインドでの世界大会に参加しており、「インド人は120キロぐらいのボールを素手で捕っていた」「インド人が本格的に野球をはじめたら相当強いと思う」とその秘めたポテンシャルを語っている。
世界各国の高校生が集う今大会。日本代表だけではなく、彼らのプレースタイルにも目を向ければ、熱戦がさらに面白くなるだろう。
(文=落合初春)