野球選手以外でベストナイン選んだら、どんなチームができる!?
男優、女優、食べ物……。人間以外もあり! ということで、週刊野球太郎が「妄想ベストナイン」を選出。オーダーを組んでみた。
栄えある(?)「妄想ベストナイン」が集うリーグは、名づけて「モ・リーグ」(「モ」は妄想の「モ」です……)!
第2回目のテーマは「2020箱根駅伝ベストナイン」。戦前から“戦国駅伝”と言われたように多くの出場校の実力差は拮抗、調子の良し悪しが結果を大きく左右し、10区間中7区間で区間新記録が生まれた“超高速化”した第96回箱根駅伝を振り返って、選手のみならず、さまざまなトピックも組み込んだ“ごった煮”ベストナインを考えてみたい。
※筆者の独断と偏見によるものなので、お気楽な気持ちでお読みください。
まず、ベストナインの顔ぶれを先に紹介しよう。過去の妄想ベストナインと同様に1番打者には1区、2番打者には2区……と絡ませている。ポジションは名前と経歴で適当に決めたので、特に言及していないこと、ご了承ください。
1番は1区区間賞の米満怜(創価大)。各大学の実力者が揃い、例年になくハイペースの中で勝ち切り、結果的に創価大初のシード権獲得の流れを作ったことを評価。もちろん結果もよかったが、走る姿もかっこよかった。道中は他のランナーや時計に目をやることなく、キリッと前だけを見据えて淡々と走り続けた。もう一度、見返す機会があれば、米満のランニングフォームや目線にぜひ注目を。ちなみに、出身校は大牟田高で、卒業生が4選手も今大会の箱根で走ったが、全員1区だった(鬼塚翔太[東海大]、原田宗広[順天堂大]、吉里駿[駿河台大・関東学生連合])。
2番にはズームXヴェイパーフライネクスト%(NIKE)。いきなり選手ではなく恐縮だが、各種メディアの記事でもSNSでも話題沸騰の、数多くの選手が履いていたピンクは市販品、メーカー支給品はブルー×オレンジと片足ずつカラーが違うシューズを取り上げるわけにはいかない。区間新や区間上位を記録したほとんどの選手が履いた(区間新記録を成し遂げた選手では嶋津雄大[創価大]だけミズノ社のシューズ)だけでなく、全ランナーのシェア率も80%以上となった効果か、レースも超高速化。「総合タイムが11時間を切れば、十分優勝争いに絡める」とこれまで言われてきたものの、今大会はシード権を獲得した10位の東洋大までが11時間を切った。
このような結果もあってか、ヴェイパーがこんなに使われていいのか、という是か非かの論争まで巻き起こり出した。しかし、ヴェイパーの威力を発揮する条件と言われているのが“10000メートル以上走るロード”で、日本人に圧倒的に人気で注目されやすい駅伝、マラソンがそのレース条件に当てはまるだけ。トラック競技ではスパイクが主流で、ヴェイパーで記録向上といった話は世界的に見てもほぼない。国際大会でロードを走るのはマラソンくらい。このような事例から競泳水着・レーザーレーサーのような一部の選手しか行き届かないなら使用禁止とまではならないだろう。と言っても、ここまで靴に注目されるのは珍しく、駅伝・マラソンに限らず、“なにを履いているか”のチェックが新たなスポーツの楽しみ方の1つになると面白い。
3番打者は、21.4キロの3区で1時間切り(59分25秒)という破格のタイムで走ったY.ヴィンセント(東京国際大)を選出するのは至極当然だが、彼とともにルカ・ムセンビにも注目したい。ムセンビは全日本駅伝で最長の8区を走り、チームを6位から4位に引き上げ、区間賞を獲得した。その実力は大学陸上界でも上位だろう。
では、なぜ箱根を走らなかったのか? というと外国人留学生は1人しか走れないから。2人とも1年生なので、今後卒業するまで全日本駅伝、箱根駅伝では出場できるかどうかを争い続けなくてはならない(留学生に出場枠の制限がない出雲駅伝は問題なし)。2019年度のように箱根駅伝予選会と全日本駅伝が中1週間の場合はターンオーバー制のように起用できるメリットもあった。一方で仙台育英高出身のムセンビのおかげで、ヴィンセントは言葉を含めて生活の不自由さも軽減されているに違いない。競い合い、支え合う両選手の関係性をこれからも注目したい。
4番は、初めての箱根駅伝で4区区間新を出した吉田祐也をはじめとした青山学院大の4年生としたい。原晋監督は「大学スポーツは4年生(が重要)」とかねてから言っており、今年度の4年生は期待薄で意見の対立が多かった世代だったものの、最後まで真摯に練習に取り組み、力をつけ、それぞれが素晴らしい結果を出し、チームに勢いを与えた。走った選手以外でも、過去2年連続で5区を走り、昨年は区間13位のリベンジに燃えていた竹石尚人は、ケガのため、エントリーさえもなかったが、当日は給水係を担うなど最後まで献身的に働いた。4年生になってから成長をしたり、チームワークのよさから由来するような“無形の力”が生み出されるかなども大事だと痛感した。野球でも同じだろう。
5番も宮下隼人(東洋大)&浦野雄平(國學院大)と複数の選手を選出した。5区で区間3位ながらも、もともと昨年に自身が更新した区間記録よりも早かった浦野は富山商高卒、5区区間賞&現区間記録保持者となった宮西は富士河口湖高卒、それぞれ唯一の富山出身、山梨出身の選手だった。長距離が盛んな地域でなくとも、高校駅伝不出場でも、大学でコツコツと力をつけ、花を咲かせた努力と、才能を見つけた指導者の慧眼に拍手を送りたい。ちなみに、浦野は中学までは野球部で、当時の股関節の動きにポイントを置いたトレーニングが陸上生活に生きているかも、とのこと。
6番も野球経験者の武川流以名(中央学院大)。こちらはなんと島田樟誠高まで野球をプレーし、大学から陸上に移った“変わり種”の選手。高校時代は1番・中堅手のレギュラーだけでなく主将も務めた。高校生の頃から大学では箱根駅伝を目指すことを視野に入れており、自ら中央学院大を選び、入学。そして、1年生で走っただけでなく、区間5位、58分25秒という記録も素晴らしい。これからの活躍も楽しみだ。また、この時代に、大学から本格的に長距離を始めるというキャリアを開拓したことで、追随する選手が出てくるだろうか? この観点でも注目していきたい。
なお、武川情報のほとんどは『野球太郎』でも執筆いただく「静岡高校野球」のブログ(http://tsukasa-baseball.cocolog-shizuoka.com/)、ツイッター(@shizuokabb)を参考にしているので、こちらもご覧ください。
7番も変則的な起用で学法石川高を入れた。今大会で浜松日体高と並んで卒業生は最多の7人も走った。そして、2区で相澤晃(東洋大)が、7区で阿部弘輝(明治大)が区間新記録を更新。それだけでなく、阿部が同級生の真船恭輔(東京国際大)を追い抜かす際に、目線を送り「がんばろう」と一言かけた。2人が並走することはほぼなく、阿部が引き離したが、真船は勇気づけられたという。そして、阿部は櫛田佳希(明治大)へ、真船は芳賀宏太(東京国際大)へ、ともに学法石川高の後輩でもあるランナーに襷をつないだ。学石ファンにとってはたまらない光景が続いた7区だったに違いない。
少し余談。“昭和時代”を生きたスポーツ選手は「殺気がない」などと言うかもしれないが、対戦相手も讃える、リスペクトするというのが今の時代の選手の自然な振る舞いなのだろう。この阿部の声掛けのほかにも1区で吉田圭太(青山学院大)が手袋をとり、投げ捨てればいいものの、集団の中からわざわざ少し下がり、歩道側に寄り、青学部員が固まっていたところに投げたり、3区でヴィンセントに抜かれそうな鈴木塁人(青山学院大)が“どうぞどうぞ”と走路を開けたり、そのようなシーンが散見された令和初の箱根駅伝だった。
8番は区間賞を獲得しながらも悔し涙を浮かべた小松陽平(東海大)。1位・青山学院大との約2分差を詰めるべくスタートしたが、昨年に打ち立てた区間新の記録から35秒遅く、区間賞ながら差は1秒しか詰められなかった。2区から6区連続区間新の流れ、2年連続で同じく区間を走る経験、昨年は区間新の自信、これらを合わせた自分への期待。すべて1時間と少しの間に崩れてしまった。区間賞インタビューでの“敗者の涙”は印象的だった。小松は東海大“黄金世代”の一員だが、東海大四(現東海大札幌)高からの付属上がりで、大学入学時の推薦組との大きかった差を少しずつ埋めていった“努力”の選手。これが最後の大学生でのレースとなり、箱根の借りは箱根で返せないが、この借りは未来のレースで返し、悔し涙を晴らす活躍を祈りたい。
9番は篠藤淳(当時中央学院大/現山陽特殊製鋼)という大学OB選手がメンバー入りとはどういうことだろうか? と思った皆様、以下の選考理由をご覧ください。何度も書いたように区間新がたくさん生まれた。視点を変えれば、区間記録が守られたのは1区、8区、9区の3区間のみ。8区は上記の通り、昨年の小松の記録。1区は佐藤悠基(当時東海大/現日清食品グループ)が2位に4分の差をつけた伝説的記録、そして9区はこの篠藤の記録である。篠藤は佐藤より1学年上で、同年代で一緒に戦った選手だ。両者を比較すると、記録もレースも言動も派手めな佐藤は社会人での活躍を目にするが、篠藤は主戦場がトラックの3000メートル障害ともあってか地味に映ってしまうし、往路と復路の実力差とも言われるかもしれない。しかし、ここに強い選手を配置でき、いいコンディションで走れるか、というと簡単にはできない。実際に篠藤が記録を作った2008年の第84回大会に中央学院大は総合3位に入った。今後、どういった状況でどんな選手が、9区の篠藤の記録を更新するのだろうか? 近未来の箱根駅伝の注目点として、覚えておいて損はないだろう。
最後、DH制をとったので、先発投手枠として嶋津雄大(創価大)を置く。メディアでたくさん紹介されていたので、さらっと振り返ると以下のとおり。
「シード権圏外の11位から9位に押し上げる」
「ミズノ社のシューズで区間新」
「暗いところが見えづらい網膜色素変性症」
「同じ症状を持つ選手も入るから創価大入学を決めた」
「趣味はライトノベル小説の執筆」
10位までが得られるシード権のために果敢に突っ込んだ序盤で、どこまで持つのか? と不安にも思ったが、すべて杞憂だった。2選手を追い抜いたことも力にして、後半もなかなか衰えず、見事に走りきった。まだ2年生なので、これからの活躍も期待したい。その一方、駅伝など大きなレースは午前中から開催されるものばかりだが、記録会は夕方から夜に行われるものもある。そういった時間帯でも走れないような改善策、対応策は、数年レベルでは出てこないかもしれないが、嶋津のこの活躍によって、新たな未来が切り拓かれたら、とてもとても大きな活躍だった、と振り返ることができる。そんな未来が待ち構えていることと、嶋津の活躍も応援していきたい。
さて、妄想ベストナインはいかがだっただろうか。今大会に出場した筑波大のほかにも、近年は駅伝強化に向けて動いている大学が増えてきた。ただでさえ山梨学院大や大東文化大など優勝経験のある大学が出場できなかったり、常連中の常連である伝統校・中央大が出場・不出場のボーダーラインを行き来するような状況。ますます“戦国駅伝”の熾烈さは極めると予想される。妄想ベストナインしかり、“俺(私)の箱根今昔物語”しかり、それぞれの楽しみ方、注目点を見つけて、これからも1月2、3日を楽しく過ごしてください。
文=カバディ西山