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file#001 中村勝(投手・日ハム)の場合

◎ダルビッシュ二世登場!

 8月5日に今季初登板。一度登録を抹消されたあと、同19日に再登録後は、9月9日までの4試合で27イニング投げて自責点1と安定した投球を見せ、先発ローテーションに定着しつつあるのが、日本ハムの3年目右腕・中村勝投手。スラっとした風貌にやや太めの眉毛、そしてキッとした目。天然パーマの髪型も含め、メジャーリーグで活躍中のダルビッシュ有(レンジャーズ)にそっくりな雰囲気を持っている。そのため、入団当初から、いや、実際にはドラフトの直前あたりから「ダルビッシュ二世」と呼ばれるようになっていたが、彼が春日部共栄高校時代に公式戦で投げ始めた頃から「あれはダルビッシュだ!」なんて思いながら見ていた人がどれほどいただろう? はっきり言ってしまえば、当時から好投手との評判こそあれど、そんな面影はまだまったくと言っていいほど感じられなかった。



◎2008年10月〜秋の埼玉県大会準決勝

 私が初めて中村投手のピッチングを見たのは今から4年前。2年秋の埼玉県大会準決勝だった。花咲徳栄高校を相手に力投する彼を見た最初の印象は「ストレートのスピードはそこそこある。しかし、いくらなんでも手足が細すぎる。大丈夫か?」というものだった。とにかく、腕がシャープペンシルの芯のように細い。すぐに壊れてしまうのではないか? 立っている姿はまるで“棒”のようだ……という不安の方が先に目についたのだ。
 ところが、実際に投げている姿を見ると、その印象が少し変わった。上半身が頭から思い切り突っ込むせいか、正面から見るとかなり迫力がある。全身を使って投げるフォームは力強ささえ感じた。そして、腕がすごくしなるのも特徴的で、上半身が下を向くくらいになってから腕が遅れて出てくる。この点には大きな魅力を感じた。体の使い方、メカニズムはすでに完成されているといってもいいほどだった。
 ただ試合の方はシーソーゲームとなり、同点で迎えた9回裏に花咲徳栄・永田恭一(現東北福祉大)のサヨナラホームランを喫してセンバツへの道は断たれている。この日は、ボールを引っ掛けてのショートバウンドが多く、走者を背負ってのワイルドピッチが失点につながる場面もあった。「何を投げているんだろう?」と思ったが、それがフォークであることを知ったのは、試合後に花咲徳栄・岩井隆監督の囲み取材でのこと。「あんなボール打てっこない。彼はおそらく今年の県ナンバーワン投手」という話を聞いた時のことだった。

◎2009年7月〜夏の埼玉県大会

 その後、翌年になって中村投手をしっかり見たのは、もう最後の夏となった7月の埼玉県大会でのことだった。この頃になると、プロのスカウトの評もかなり上昇していて、ならばなおさら見ておきたいという衝動にかられて埼玉に足が向いたのである。
 久しぶりに見た中村投手の姿は、下半身から胴体にかけての体の線ががかなり太くなっており、腕周りは相変わらず細いながらもだいぶ筋肉がついていた。いくらか体ががっしりしたようだった。



 ところが、逆にフォーム自体はしなやかさが薄れ、私にはかなり固い印象に映った。この日の試合は、富士見を相手に3安打完封と内容は良かったが、秋に見たときはそれほど多く投げていなかった緩いカーブを多投していたのがすごく気になった。抜いたカーブは腕が外回りになると投げやすくなる変化球だからだ。その意味で、夏の中村投手は、ドラフト対象としては逆に疑問符のつくフォームに思えた。大会の方も、甲子園の夢は断たれ、準々決勝の埼玉栄戦で惜敗。関東での知名度はかなり上がっていたが、果たしてプロのスカウトがドラフト何位で指名するのか? 秋のドラフト会議では、興味深く当日を迎えることになった。

◎2009年ドラフト会議、そしてプロへ
 この年のドラフトの目玉は、花巻東の菊池雄星(現西武)。多くの球団が菊地投手を指名したが、抽選は西武が引き当てる。そして、改めて行われた2度目の1位指名で日本ハムが指名したのが中村投手だった。評価はそれなりに高かったとはいえ、まさか1位指名とは。当時『野球小僧』の編集部でTV中継を見ていた面々も、みなこの指名に驚いたと記憶している。

 日本ハムに入団した中村投手は、本家のダルビッシュが所属する球団ということで、当然のことながら「ダルビッシュ二世」と、さらに言われるようになった。1年目、2年目は、さすがにその期待に応えられるような投球内容とは程遠かった。
 そして、3年目の今年は前半ファーム暮らし。だが、彼がフレッシュオールスターで投げている姿を見てビックリ! いよいよ顔だけでなく、フォームまでダルビッシュそっくりになっていたのだ。身長が184センチなので本家よりやや小ぶりだが、テークバックのヒジのたたみ方などはウリ二つである。体格も入団時に比べたら比べものにならないくらい“プロの身体”になっていた。たった3年でこんなにも成長するものなのか、と痛感させられたが、その直後の8月から1軍であの好投である。

★   ★   ★
 今となっては、誰も疑わないであろう「ダルビッシュ二世」の称号だが、高校当時を知る者にとっては、たった4年前の“棒”みたいな姿が懐かしい。このままいい形でシーズン終了を迎え、クライマックスシリーズなどで好投すれば、来年は不調でファームに落ちた斎藤佑樹投手を飛び越え、一躍エース格に浮上する可能性もある。
 中村投手が「ダルビッシュ二世」の面影がなかった頃を知っている者として、これはもう乗りかかった船だ。プロの世界で本当の意味で一流投手となるのを、今や遅しと見守って行きたい。そして活躍するたびに、「あの頃のアイツはさぁ…」と当時の記憶を自慢するしつこいオヤジになってやろうと思う。

文=キビタキビオ……野球のプレーをストップウオッチで測る記事を野球雑誌にて連載つつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』(10月5日創刊)を軸足に活躍中。

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